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「仲間だね」
嬉しそうな表情でそう言ってくれる桜。
「……そうだな」
対する俺は、何とも投げ遣りな肯定。
「昭久さん。魔法使いとしての素質があれば、就職に有利になりますか?」
「普通はそれだけで採用になる程、有利になるぞ。ただ、一つ忠告しておく」
何だろうか。
「魔法使いの素質がある事を、邪険にするな。間違っても、『無い方が良かった』なんて言うな。それを聞かれただけで、殺される理由になる事がある」
昭久さんの眼に、光が無い。
熱が無い。
生気が無い。
「………分かりました」
気付くと、俺はぐっしょりと汗をかいていた。
「なら、良い」
心底つまらなそうに、昭久さんは言った。
「驚かせてゴメンね?」
あの後、昭久さんは無言で席を外した。
だからこの場に残っているのは、俺と桜だけ。
「いや……、俺が悪かったんだろうし。今度からは本当に気を付ける」
苦笑を浮かべて謝ってくる桜に、俺は低めのトーンで応えた。
あの眼を見れば、身近な所で「何か」があったのは明らかだしな。
「あ……、と。とりあえず今日は、ここに泊めて貰って良いか? 明日からは、正直分からないけど」
駄目なら野宿で良い。
「無理しないで良いよ。お父さんも言った通り、暫くはウチに泊まっていって良いから」
「……恩は、働いて返す」
早く元の世界に帰る方法を見付けないといけないが、右も左も分からない状況で足場も無いとなると、本当にどうしようも無いからな。
地道に進んで行こう。
「『恩』だなんて、そんなに気にする事無いのに」
裏の無い笑顔でそう言って貰えると、余計に気にする。
本当にきちんと返そう。
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