俺は俺。でもここは何処?

13/42
前へ
/1048ページ
次へ
「仲間だね」  嬉しそうな表情でそう言ってくれる桜。 「……そうだな」  対する俺は、何とも投げ遣りな肯定。 「昭久さん。魔法使いとしての素質があれば、就職に有利になりますか?」 「普通はそれだけで採用になる程、有利になるぞ。ただ、一つ忠告しておく」  何だろうか。 「魔法使いの素質がある事を、邪険にするな。間違っても、『無い方が良かった』なんて言うな。それを聞かれただけで、殺される理由になる事がある」  昭久さんの眼に、光が無い。  熱が無い。  生気が無い。 「………分かりました」  気付くと、俺はぐっしょりと汗をかいていた。 「なら、良い」  心底つまらなそうに、昭久さんは言った。 「驚かせてゴメンね?」  あの後、昭久さんは無言で席を外した。  だからこの場に残っているのは、俺と桜だけ。 「いや……、俺が悪かったんだろうし。今度からは本当に気を付ける」  苦笑を浮かべて謝ってくる桜に、俺は低めのトーンで応えた。  あの眼を見れば、身近な所で「何か」があったのは明らかだしな。 「あ……、と。とりあえず今日は、ここに泊めて貰って良いか? 明日からは、正直分からないけど」  駄目なら野宿で良い。 「無理しないで良いよ。お父さんも言った通り、暫くはウチに泊まっていって良いから」 「……恩は、働いて返す」  早く元の世界に帰る方法を見付けないといけないが、右も左も分からない状況で足場も無いとなると、本当にどうしようも無いからな。  地道に進んで行こう。 「『恩』だなんて、そんなに気にする事無いのに」  裏の無い笑顔でそう言って貰えると、余計に気にする。  本当にきちんと返そう。
/1048ページ

最初のコメントを投稿しよう!

47647人が本棚に入れています
本棚に追加