47647人が本棚に入れています
本棚に追加
「宗助ー。朝だよー」
ゆっさゆっさ。
左右に軽く動きを感じる。
仰向けに寝ていた俺は、ぼんやりと頭を動かし始める。
あー……、そうだ。
異世界だ。
ファンタジーが現実に。
で、今はお人好しな親子に世話になり始めたばかり、と。
「おはよう、桜」
目を開け上体を起こし、朝の挨拶。
「うん。おはよう、宗助」
ここは、軽く倉庫と化していたのを片付けた部屋。
申し訳程度に確保されたスペースに布団を敷き、そこに寝ていた。
少し埃っぽさがあるのは仕方無いか。
「昨日は良く眠れた?」
「お陰様で」
野宿じゃ無い事の有り難みを実感してる。
「それは良かった。じゃ、着替えてから台所に来てね」
そう言って、桜は部屋を出ていった。
寝床の傍に置かれた服を見て、俺は完全に起き上がる。
「あ、似合ってる似合ってる。大きさも合ってるみたいだね」
着替え終えて台所にやって来ると、桜が食材を切り始めていた。
「じゃあ、早速だけどこれ切って鍋に入れて。……包丁は使えるんだよね?」
「まあ、簡単な自炊ならやってたから。過度の期待をされたら困るけど」
「大丈夫、無茶は言わないよ」
それなら良いが。
……切れ味が、悪い。
包丁はいつも切れ味を保って使っていたものだから、こうも切り難い包丁を使うのは初めての経験。
何で、切り口が鑢(やすり)で削れた様になってるんだ……。
「……砥石、あるか?」
思わず訊いた。
「あ、切れ味悪いよね。ちょっと待って」
隣で鍋をグツグツ言わせている桜はそう言って、上の戸棚に手を伸ばす。
……届きそうで、届かない。
「ん~~~っ!」
やはり届かない。
「……俺が取る」
「………お願いします」
了承も得た所で、今度は俺が戸棚に手を伸ばす。
ギィ、と小さな音が鳴ると、中にある様々な調理器具が見えた。
「右端の方にある筈なんだけど」
「ああ、あった」
直方体のソレを取り出し、表面を軽く水で流して調理台の上に置く。
最初のコメントを投稿しよう!