捕虜

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「そうだな。話し合おう───」  平和的な手段へと事態が傾くのかと、そう思っていたがしかし。 「───かッ!」  三本のナイフが、迷い無くログの顔に向けて飛ぶ。  見事に交渉決裂。  いや、交渉と呼ぶのも憚(はばか)られる様な。  とは言え、きっとログは交渉の場を作るつもりなのだろうと思った。  何故なら彼は、涼しい顔で攻撃を防いだから。  突如として刀を実現させ、軽くナイフを弾いただけで止めたから。  怒った様子が微塵も無いから。 「悪いが、ここの責任者は俺なんでな。話し合いの手段は、少しばかり手荒になる!」  続けて三本、六本と、ナイフを投擲する男。  向かってきたナイフをログが弾いた頃、周囲に展開していた他の人間も各々動き始める。  ログはそれでも、余裕の表情を崩さないけれど。 「名前だけで相手を過大評価しなかった点は、一応誉められるか」  噂の一人歩きは良くある話で、それを鵜呑みにしなかったらしい事を言っているのだと思われる。 「ただ、結局それで測り間違えたなら、意味は無いな」  本当に、ユウキ殿でも言いそうで。 「サザランド最強の魔法使いの力を、見せてやる」  右手に白銀の刀、左手に青い炎。  ログは雪の上と言う条件を無視した移動速度で、敵へと肉薄する。  ノリノリですね、と茶化したくなるが似ている。  私でもそう感じたのだから、噂でしかユウキ殿を知らない連中には疑う要素など無いだろう。  さて。  私は私で、片付けはしよう。  それに、まだまだ付け焼き刃の域を脱していない二刀流を、早くモノにしなければ。
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