捕虜

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 右手にインスタンス本体を。  左手にその複写体を。  ひとまず逆手に持ち、攻撃手段と推進装置の役割を兼任させる。  ───両手の剣から爆発的な推進力を得て、冗談の様な急加速。  比喩表現無しで、景色が歪んだ。  結果、最も遠い位置で様子を窺っていた者の、背後へ。  駆け抜けると言うよりは飛び去ると言った方が、むしろ適切だと感じてしまう程。  それ程の速度で以て敵の背後を取った私は、殺さない程度の力を右手に込めて。  私に背中を見せる男の後頭部を、柄頭で殴った。  面白い様に見事な水平投射から始まり、殴られた男は最終的に前のめりで雪に顔を突っ込む。  そのまま雪車(そり)の如く、雪上を数メートル滑走した。  ……目標の真横を通過してからの方向転換が、まだ甘い。  実戦でも使える程度にはなっているものの、やはりログ相手にこれでは致命的。  まだまだ、訓練が足りない。  溢れそうになる溜め息を寸での所で飲み込み、前を見る。  唖然とした表情で私を見る目が、沢山あった。 「この程度で驚かれても困るのですが」  魔法使いでは無い人間が明らかに魔法を使ったのだから、その気持ちは分からないでも無いけれど。  ただ、戦いの中で敵に動揺を見せてしまっては話にならない。  仕方無いので私はインスタンスをクルリと回し、順手に持ち直す。  距離を詰めるのは自分の足で行おう。
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