捕虜

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「残念だったな。現実は残酷な事がとても多い」  そう言って敵の喉元に白刃を突き付ける、黒髪黒目の青年。  現在進行形で双子の弟のフリを続けている、恐らく世界最強の魔法使い。 「突然の攻撃に加え、こちらの警告を一方的に無視したんだ。相応の結果だとは思わないか?」  口許を軽く歪め、嗜虐的な笑みを浮かべているログ。  アレは彼の素だろうか。  少なくともユウキ殿の性格では無い。  断じて違う。  なお、周囲には降り積もる雪に半ば埋もれる様な形で倒れている人間多数。  概ね半分は、私が片付けた。  あまり長い時間放置していると、凍死体が沢山作られてしまいそうだ。 「冗談だろ……。魔法使いが、何でこんな近距離で、ここまで戦える……?」  自ら責任者を名乗った男───何を隠そう、この現状を作った原因であり、現在ログの敵意を一身に受けている、全く以て哀れな男の発言だった。  同情の余地は無いが。  あちらはログが勝手に片付けると判断した私は、無能な上司に巻き込まれてしまった「同情の余地がある」その他大勢の凍死、または凍傷を予防すべく行動を開始。  内蔵魔力に余裕のあるインスタンスの設定を弄り、火力を大幅に下げる。  「温風」程度にまで下がった出力で、辺りの空気を暖めていく。  エアーコンディショナー、略してエアコンと言うらしい物を以前ユウキ殿から聞いていたので、私はそれを参考に魔法処理を実行した。  白かった吐息が、次第に無色透明へと変わっていくのが分かる。  地に伏して小刻みに身体を震わせていた者達が、ゆっくりと起き上がり始めた。  流石にもう、戦闘の意思は無さそうだ。  何処か投げ遣りな印象を受ける沢山の目が、私を見てくる。
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