捕虜

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「煮るなり焼くなり、好きにしろ。俺達は負けたんだ」  抑揚の無い声だった。  皆一様に目を伏せ、生気が無い。 「……別に、私は貴方達をどうこうするつもりで来た訳ではありません」  目的を知らされずに来ただけなのですが。  それは飲み込んで言葉を紡ぐ。 「上司からの命令に逆らえないのも、軍に所属している私には分かる話です」  インスタンスの複写体を消し、本体を鞘に納める。  私を見る男達の表情から、翳りが薄れてきた。 「ですから、そう心配する必要はありませんよ」  出来るだけ無用な障害を減らす為、私は少し意識して微笑みを作る。 「なら……俺達は……?」  それでもまだ不安な様で、確認の声は僅かに震えている。 「大人しくしていてくれるのなら、もう私からは何も」  何かをする理由が無い。 「女神様だァッ!」  え? 「俺達は毎日毎日、来る日も来る日も、休み無くコキ使われて!」 「文句どころか、少しでも不満そうな表情を浮かべたら厳罰で!」 「けど、他に働ける場所なんて無いから、皆必死で従ってたんでさぁッ!」  あの……、はい?  突然口々に身の上話を吐き出され、戸惑う私を他所に。  男達は決壊したダムの様に、口から言葉の数々を尚も吐き出す。 「それで、それで……ッ!」 「あぁ、こんな優しい言葉掛けて貰ったのは、いつ以来だったかなぁ……」 「俺、何だか救われた気がするよォ……ッ!」  ……とても演技には見えない。  いや、演技では無いと確信した。  本気で号泣されている。  一体どうしたのか。  何が何だか分からないが、どうも私は話を聞くしか無さそうだ。 「……成る程。ここに居る全員、過去に罪を犯してしまったのですか」  貧困から、盗みを働いた者。  騙され借金を抱えた結果、自らも人を騙した者。  家族を殺された恨みから、その犯人を殺害した者。  理由は様々。  けれど全員、単純に「悪」の一言で片付けられる訳では無かった。  勿論、だからと言って肯定は出来ないけれど。 「はい……。ですから俺ら、本当はこんな情けを掛けて貰える様な人間じゃあ無ぇんです」  全員が雪の上で正座し、私を神でも見るかの様な恭(うやうや)しさで見上げている。  ……居心地が悪くて仕方無い。
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