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いざ建物の中に入ると、そこには中々の混沌が広がっていた。
単純に纏めよう。
本当に汚い。
敷地内には、ここの他にも幾つかの建物が規則的に並んでいた。
その中でもここは、どうやら居住を目的とした建物らしい。
居間らしき部屋では、脱いだ衣類が放置され。
台所らしき部屋では、汚れた食器が山を作り。
成る程、男所帯とはこう言うモノか。
そう納得した。
考えるのを止めた、とも言う。
「この衛生環境、お世辞にも宜しく無いな。傷の手当てをする道具がここにあったとしても、俺はそれを使う気にはならないよ」
心底うんざりした声色で、ログはそう切り捨てた。
「う、うるせぇ! 男がガタガタ言うんじゃ無ぇよ!」
必死の反論が、何とも弱々しい。
声は一応、それなりに大きいのだけど。
「では私から言わせて頂きます。もう少し衛生面に気を配ってください」
「分かりやした!」
迷いの無い即答。
……私の言葉は必要以上に迅速かつ、確実に受け入れられるのか。
妙な気持ち悪さを覚えた私は、何と無くログを見る。
「まあ、手当ては俺がやろう。怪我を負わせたのは主に俺だし、多少は医術の心得もある」
本職には及ばないけどさ、としっかり前置きした辺りは、演技なのか素なのか。
私は後者である様に感じた。
口調は彼自身のそれに近くなっているし。
演技の必要性も、最早無さそうだ。
「その間、詳しい話を『彼』に訊いておいて貰えるかな?」
そう言ったログの視線の先。
そこでは手を後ろに縛られたここの責任者が、不貞腐れた表情をこれでもかと浮かべていた。
「この施設、単なる防衛拠点じゃ無いらしいし。……ま、兎に角頼むよ」
ログは一瞬だけ鋭い視線を見せ、そしてすぐに普段通りの軽い空気を纏った。
「ええ、分かりました」
一瞬迷ったが、やはり今はログの言葉に従うとしよう。
私は責任者の方へ、爪先を向けた。
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