捕虜

39/61
前へ
/1048ページ
次へ
 牢獄の様な、或いは病院の様な。  相容れない二つが混ざり合い、その結果としてこの凄惨な光景が生み出されたのか。  ───ヒトが、ヒトの形を成していなかった。  地下、研究施設。  地上とは物々しい隔壁で分断され、出入口である扉は異界への門を思わせた。  責任者が夢遊病患者の様な足取りで先頭を歩き、非常灯の緑の光で照らされた廊下を進む事、約五分。  途中には幾つも扉があり、どれも代わり映えしないモノだったが。  その時目の前に現れた扉は、とても大きく、また如何にも頑丈そうで。  白い扉が緑の光を反射し、妙に気味が悪いと感じた。  ……いや、単にその先にあるモノを想像した結果だったのか。  改めて、扉の先にあった───現在の俺の視界にある光景について、語ろう。  ヒトが、ヒトの形を成していない。  手術台の様な場所に、手枷と足枷を嵌められているヒトが一人、二人、三人、大勢。  右腕だけが、異常発達して巨大になっている者。  二つの眼球が、充血では説明出来ない程の真紅に染まっている者。  全身が、蛇の様な鱗に覆われている者。  口が耳付近まで裂け、肉食動物の様な頭部を持つ者。  他にも、四肢の一部が欠損していたり、今まさに口から泡を吹いて事切れたり。  B級ホラー映画のワンシーンを切り取った様な、そんな状況。 「これは、どういう事ですか?」  そんな中、白衣に身を包んだ初老の男がこちらに近付いて、そう訊いてきた。  周りに視線を向ければ、他にも白衣を着た人間が複数。  全員、こちらを嫌そうな目で睨んでいる。  「部外者は出ていけ」と、そう言わんばかりに。 「関係者以外の一切の立ち入りを、禁じていた筈ですが。それは貴方も例外では無い。納得のいく説明を求めます」  この異常な光景を作り出している、当人達にしてみれば。  異形へと姿を変えられた者よりも余程、俺達の方が異物として認識されるモノらしい。  まあ、それはそうか。  でなければ、こんな悪魔の所業とすら呼べる事をして尚、正気を保てる訳が無い。  良かったよ、安心した。  今回は特に躊躇わず、仕事が出来そうだ。
/1048ページ

最初のコメントを投稿しよう!

47645人が本棚に入れています
本棚に追加