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牢獄の様な、或いは病院の様な。
相容れない二つが混ざり合い、その結果としてこの凄惨な光景が生み出されたのか。
───ヒトが、ヒトの形を成していなかった。
地下、研究施設。
地上とは物々しい隔壁で分断され、出入口である扉は異界への門を思わせた。
責任者が夢遊病患者の様な足取りで先頭を歩き、非常灯の緑の光で照らされた廊下を進む事、約五分。
途中には幾つも扉があり、どれも代わり映えしないモノだったが。
その時目の前に現れた扉は、とても大きく、また如何にも頑丈そうで。
白い扉が緑の光を反射し、妙に気味が悪いと感じた。
……いや、単にその先にあるモノを想像した結果だったのか。
改めて、扉の先にあった───現在の俺の視界にある光景について、語ろう。
ヒトが、ヒトの形を成していない。
手術台の様な場所に、手枷と足枷を嵌められているヒトが一人、二人、三人、大勢。
右腕だけが、異常発達して巨大になっている者。
二つの眼球が、充血では説明出来ない程の真紅に染まっている者。
全身が、蛇の様な鱗に覆われている者。
口が耳付近まで裂け、肉食動物の様な頭部を持つ者。
他にも、四肢の一部が欠損していたり、今まさに口から泡を吹いて事切れたり。
B級ホラー映画のワンシーンを切り取った様な、そんな状況。
「これは、どういう事ですか?」
そんな中、白衣に身を包んだ初老の男がこちらに近付いて、そう訊いてきた。
周りに視線を向ければ、他にも白衣を着た人間が複数。
全員、こちらを嫌そうな目で睨んでいる。
「部外者は出ていけ」と、そう言わんばかりに。
「関係者以外の一切の立ち入りを、禁じていた筈ですが。それは貴方も例外では無い。納得のいく説明を求めます」
この異常な光景を作り出している、当人達にしてみれば。
異形へと姿を変えられた者よりも余程、俺達の方が異物として認識されるモノらしい。
まあ、それはそうか。
でなければ、こんな悪魔の所業とすら呼べる事をして尚、正気を保てる訳が無い。
良かったよ、安心した。
今回は特に躊躇わず、仕事が出来そうだ。
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