青い炎の魔法使い

21/45
前へ
/1048ページ
次へ
 ………。  結局、夜になっても何も出来なかった。  ソウスケが作ったと言う料理は、今まで食べた事の無い味と食感でとても美味しく、それを誉めるくらいはしようと思っていたのだが。  ……誉めたとして、恩返しには程遠いと言う事は理解している。  そもそも私は、ご馳走になっただけなのだから。  むしろ受けた恩を増やしている。 「キャヴェンディッシュ中尉」 「……何ですか、マクダネル少尉」  家の外で一人呆然としている私に声を掛けたマクダネル少尉を、横目で確認する。 「いや、ずっと調子悪そうだったんで気になって」 「……ご心配をお掛けした様ですが、私は普段通りですよ」  ヤレヤレ、とばかりに溜め息を吐いてみせる。 「あー、月のヤツですか?」  今の私が出せる最大の速度で以て、マクダネル少尉に向かって剣を突き付ける。 「そこに直りなさい。私の剣の錆にしてくれます」  しかし、マクダネル少尉はヘラヘラと笑っている。 「軽い冗談ですよ。ホントに重い日だった訳でも無いでしょう?」 「フ───ッ!」 「ちょ、あっぶなぁっ!?」  極力予備動作を無くして刺突をしたものの、薄皮一枚を裂くだけに留まった。 「浅いか……」 「『浅いか……』じゃ無いですよ! 殺す気だったんですか!?」  私は僅かに付着した血を拭き取り、剣を鞘に納める。 「マクダネル少尉。何事も経験、ですよ?」  ニコリと笑って私は言った。 「臨死体験とかしなくて良いかなって俺は思います」 「いえ、戻って来られない状態まで」 「死刑宣告!?」  私に無礼を働いたのだから、まあそのくらいは。 「今朝、死に掛けたではないですか。それなら、その少し先くらい───」 「断崖絶壁に先は無いですよ!」  ………。 「分かりましたよ、マクダネル少尉」  私は降参する事にした。 「いやホント、勘弁してくださいよ……」 「違います。貴方の無理な励ましに応えると、そう言ったんですよ」  私がそこまで言うと、マクダネル少尉はバツの悪そうな表情を浮かべた。 「あー、バレてました?」 「途中からですが。流石に貴方も、意味も無く失礼な事は言わないでしょう」  そのくらいは私も分かっている。
/1048ページ

最初のコメントを投稿しよう!

47645人が本棚に入れています
本棚に追加