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………。
結局、夜になっても何も出来なかった。
ソウスケが作ったと言う料理は、今まで食べた事の無い味と食感でとても美味しく、それを誉めるくらいはしようと思っていたのだが。
……誉めたとして、恩返しには程遠いと言う事は理解している。
そもそも私は、ご馳走になっただけなのだから。
むしろ受けた恩を増やしている。
「キャヴェンディッシュ中尉」
「……何ですか、マクダネル少尉」
家の外で一人呆然としている私に声を掛けたマクダネル少尉を、横目で確認する。
「いや、ずっと調子悪そうだったんで気になって」
「……ご心配をお掛けした様ですが、私は普段通りですよ」
ヤレヤレ、とばかりに溜め息を吐いてみせる。
「あー、月のヤツですか?」
今の私が出せる最大の速度で以て、マクダネル少尉に向かって剣を突き付ける。
「そこに直りなさい。私の剣の錆にしてくれます」
しかし、マクダネル少尉はヘラヘラと笑っている。
「軽い冗談ですよ。ホントに重い日だった訳でも無いでしょう?」
「フ───ッ!」
「ちょ、あっぶなぁっ!?」
極力予備動作を無くして刺突をしたものの、薄皮一枚を裂くだけに留まった。
「浅いか……」
「『浅いか……』じゃ無いですよ! 殺す気だったんですか!?」
私は僅かに付着した血を拭き取り、剣を鞘に納める。
「マクダネル少尉。何事も経験、ですよ?」
ニコリと笑って私は言った。
「臨死体験とかしなくて良いかなって俺は思います」
「いえ、戻って来られない状態まで」
「死刑宣告!?」
私に無礼を働いたのだから、まあそのくらいは。
「今朝、死に掛けたではないですか。それなら、その少し先くらい───」
「断崖絶壁に先は無いですよ!」
………。
「分かりましたよ、マクダネル少尉」
私は降参する事にした。
「いやホント、勘弁してくださいよ……」
「違います。貴方の無理な励ましに応えると、そう言ったんですよ」
私がそこまで言うと、マクダネル少尉はバツの悪そうな表情を浮かべた。
「あー、バレてました?」
「途中からですが。流石に貴方も、意味も無く失礼な事は言わないでしょう」
そのくらいは私も分かっている。
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