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───落ち着け、俺。
袋小路に入りかけた思考を戻し、まずは状況分析。
気が付けば、俺はこの身一つでここに居た。
持っているのは、ポケットの中にある折り畳み式携帯電話。
しかし圏外。
それと、上着の胸ポケットに何故か入っていたアナログ式の腕時計。
あと、家の鍵もある。
財布が無いのは不味いだろうか。
ここまで俺を運んだのは誰だ?
目的は何だ?
目的があるなら、何故俺は縛られも監禁されもせずに放置されている?
……駄目だな。
分からない事が多過ぎて、考えを纏め様が無い。
とにかく移動しよう。
人を見付けられれば、何とかなる筈だ。
半ば現実逃避気味に、俺は足を動かす。
草原を歩く事、二時間。
その間ずっと真っ直ぐに歩き続けたが、人どころか動物すら見付からない。
そういえば、足跡が無いな。
「腹、減ったな……」
代わり映えしない景色の中、室内用スリッパで草原を二時間歩く。
徒労感と歩きにくさで、結構な体力を持っていかれてしまった。
流石に考え無し過ぎただろうか。
そう思うが、だからと言ってあのまま彼処に留まっていたところで、一体何が出来ただろうか?
しかし、現に何の成果も得られていないのは、忌々しくも紛れも無い事実。
せめて、草木以外の何かが見付かれば───
「───?」
思考しながらも足を止めずにいた俺の目に、小さな点が映った。
ソレは地平線の上にポツポツと存在し、どうも自然の物には見えない。
……幻覚じゃ無いだろうな。
一応成果らしきモノを見付けた俺はしかし、素直に喜べない捻くれた人間だった。
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