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「さーてと。キャヴェンディッシュ中尉は家の中に戻りましたよ、『宗助さん』?」
「三人から二人」になった所で、俺───カラム=マクダネルはそう話し掛けた。
「気付いてたのか……」
その声と共に、物陰から宗助さんが姿を現した。
「素人の仕事を、本職が見抜けないとでも?」
得意気に語りながら、宗助さんの挙動に全神経を傾ける。
「まあ、見抜かれるのも仕方無いか」
苦笑する宗助さん。
「ただ、一つだけ言い訳させて貰うと、元々盗み聞きするつもりだった訳じゃ無い」
「結果は変わらないですよ、それ」
「ご尤も」
棘のある俺の言葉を聞いても、宗助さんは普段通りの様子。
「ところでカラム、一つ訊きたい」
「何ですか?」
さて、何を訊かれるか。
「明日、この村を出るんだろう?」
「その予定ですけど」
「どうやって、森を抜ける気だ?」
そこだろうなぁ、やっぱり。
「万全の状態なら、来た時みたいな事が無い限り普通に自力で行けたんですけどねぇ」
思わず溜め息が漏れた。
「護衛、お願い出来ますか?」
「俺を信用するのか?」
宗助さんが森の中で俺達を見殺しに、または直接手を下す可能性を否定出来るのか。
「一度助けた人間を、わざわざ殺しますか?」
「状況が変われば、有り得る話だと思うけどな」
「それはまあ」
その通りだ。
「でも、宗助さんは俺達を殺さない。見殺しにもしない」
これは確信している。
「理由を聞かせて欲しいな」
聞かせますとも、ええ。
「最初に森で出会った時点で、宗助さんは俺達の目的を知った。その上で助けた」
「そうだな」
分かっている。
これだけでは決定力は無い。
「それだけなら様子見としても考えられますけど、他にも理由がある」
だから、更に理由を語る。
「間違っても馬鹿じゃ無いんですよ、宗助さんは」
「………」
ああ、これだけで伝わった。
けど一応。
「フィリスに向かった俺達二人が行方不明。そうなれば、規模はどの程度か分かりませんが捜索が始まる。すると森の中で遺体が発見される。肉は獣に食われて殆んど骨だけでしょうけど、それだけでも十分。最悪、何も見付からなくたって良い。切っ掛けは出来る」
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