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近付くにつれ、点だったモノの輪郭がハッキリしてくる。
それらは、家だった。
それも、現代から置き去りにされた様な。
「見るからに……木造建築物」
木造である事はまあ良い。
けれど気になるのは、その外観。
まるでログハウスの様に、「木を組み合わせて造りました」といった体(てい)。
少し視線をズラすと、畑らしき土地も見えた。
どうやら俺は、随分な田舎に居るらしい。
携帯が圏外表示になる訳だ。
だがそうなると、俺はそれなりに長い時間、気を失っていた事になるな。
今時、圏外エリアなんてそう無い筈なんだから。
それはともかく。
「やっと、人と話せそうだ」
安堵の溜め息を吐きながら、集落の様な場所へ入っていく。
「どうしてこうなった」
薄暗く湿った、牢屋。
俺はそんな場所に居る。
否、入れられた。
「そりゃあ、見知らぬ男が突然村に侵入してくれば、そうなるのも仕方無い話だろう?」
木製の格子の向こう側には、ラフな服装でガタイの良い肉体を覆う大男。
黒髪の短髪で、無精髭を生やしている。
「更には何処の誰かも言えないとあっちゃあ、な」
ヤレヤレと、あたかも「面倒な事になったぜ」と言わんばかりに言うこの男性。
何を隠そう、俺がこの村に入って最初に出会った人物だ。
「だがその黒髪黒目、確かに俺達ヤマト族の筈なんだがなあ」
……そう。
時々、訳の分からない会話になっていた事も、現状を作った一因だ。
まず、「ヤマト族」って何だよ。
俺はただの日本人だ。
どこぞの原住民みたいなカテゴリに入れようとするな。
「ま、今日一日大人しくしてりゃあ、明日の朝には出してやる。本当に何もするつもりが無かったって言うなら、尚の事大人しくしてな」
「……分かりましたよ」
反論が頭の中を駆け巡るが、それを抑えて殊勝な言葉を使った。
只でさえ訳が分からない状況なんだ。
これ以上事態をかき混ぜてしまっては、取り返しが付かなくなる。
……明日の朝、か。
両親は今頃、どうしているだろうか。
そもそも、こんな状況になっているのは俺だけなのだろうか。
何も分からない。
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