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移動先はアインの本拠地、俺の部屋。
「最近寝不足で辛いな」
大した事はあんまりやってないんだけど、人に任せられる事じゃ無いしな。
しかも拘束時間はそこそこ長い、と。
やってらんねー、とか言って投げ出したくなる。
ちゃんとやるけどさ?
壁に掛けられた時計を見ると、時刻は昼の十一時を回った所。
昼休みには少し早い時間帯。
かと言って、予定を前倒すには中途半端。
んー、リーズロットさんの様子でも見に行くか。
サザランド陣営の情報も伝えておきたいし。
とりあえずの予定が決まった俺は、薄汚れた作業着を着替え始める。
さて、着替えた。
白いTシャツに青い半袖シャツを重ね、ジーンズを穿く。
至って単純な服装だ。
まるで民間人。
そんな自分の感想に軽く嘲笑しつつ、俺は自室のドアに手を伸ばす。
施設内の長い廊下を歩き、幾つもの扉を通り、時折すれ違う人間と挨拶を交わしながら。
俺は、目的の部屋に───着くと思った瞬間。
「おや、どなたかと思えば渡瀬宗司様ではありませんか」
何処か芝居掛かった、わざとらしい声が俺の耳に入ってきた。
俺は内心の嫌悪感を押し留め、声が聞こえてきた方に首だけ回す。
「シオン=バスティアか。生憎俺は、お前の相手をする時間は持っていないよ」
あれ、嫌悪感が押し留められてないや。
けど仕方ないね。
俺から棘のある言葉で反応された、長い黒髪と深緑の目を持つ三十手前の男。
かつてはサザランドの軍人だった、今はアインの研究員をやっている人間。
縦長な印象を受ける顔で、切れ長な目が特徴。
常に白衣を着用し、俺からの印象は「白蛇」。
「これはとんだご無礼を。ですが、私も渡瀬宗司様に用事があった訳ではございません」
一々大仰な言い方で気に食わない。
慇懃無礼、とはこの事か。
……何のつもりで俺に話し掛けた?
まさか。
「リーズロット=キャヴェンディッシュに用事があると?」
当たっていて欲しく無い推測。
けれど現実味のある可能性は他に無く。
「ええ、その通りでございます。彼女とは少々縁がありまして、挨拶程度は、と」
笑顔を浮かべているシオン=バスティア。
深緑の目の奥に、嫌な光が見える。
「許可しない。即刻ここを立ち去れ」
得体の知れない嫌な予感。
コイツをリーズロットさんに会わせるのは、何か拙い。
俺の直感がそう告げてくる。
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