禍根

3/66
前へ
/1048ページ
次へ
 移動先はアインの本拠地、俺の部屋。 「最近寝不足で辛いな」  大した事はあんまりやってないんだけど、人に任せられる事じゃ無いしな。  しかも拘束時間はそこそこ長い、と。  やってらんねー、とか言って投げ出したくなる。  ちゃんとやるけどさ?  壁に掛けられた時計を見ると、時刻は昼の十一時を回った所。  昼休みには少し早い時間帯。  かと言って、予定を前倒すには中途半端。  んー、リーズロットさんの様子でも見に行くか。  サザランド陣営の情報も伝えておきたいし。  とりあえずの予定が決まった俺は、薄汚れた作業着を着替え始める。  さて、着替えた。  白いTシャツに青い半袖シャツを重ね、ジーンズを穿く。  至って単純な服装だ。  まるで民間人。  そんな自分の感想に軽く嘲笑しつつ、俺は自室のドアに手を伸ばす。  施設内の長い廊下を歩き、幾つもの扉を通り、時折すれ違う人間と挨拶を交わしながら。  俺は、目的の部屋に───着くと思った瞬間。 「おや、どなたかと思えば渡瀬宗司様ではありませんか」  何処か芝居掛かった、わざとらしい声が俺の耳に入ってきた。  俺は内心の嫌悪感を押し留め、声が聞こえてきた方に首だけ回す。 「シオン=バスティアか。生憎俺は、お前の相手をする時間は持っていないよ」  あれ、嫌悪感が押し留められてないや。  けど仕方ないね。  俺から棘のある言葉で反応された、長い黒髪と深緑の目を持つ三十手前の男。  かつてはサザランドの軍人だった、今はアインの研究員をやっている人間。  縦長な印象を受ける顔で、切れ長な目が特徴。  常に白衣を着用し、俺からの印象は「白蛇」。 「これはとんだご無礼を。ですが、私も渡瀬宗司様に用事があった訳ではございません」  一々大仰な言い方で気に食わない。  慇懃無礼、とはこの事か。  ……何のつもりで俺に話し掛けた?  まさか。 「リーズロット=キャヴェンディッシュに用事があると?」  当たっていて欲しく無い推測。  けれど現実味のある可能性は他に無く。 「ええ、その通りでございます。彼女とは少々縁がありまして、挨拶程度は、と」  笑顔を浮かべているシオン=バスティア。  深緑の目の奥に、嫌な光が見える。 「許可しない。即刻ここを立ち去れ」  得体の知れない嫌な予感。  コイツをリーズロットさんに会わせるのは、何か拙い。  俺の直感がそう告げてくる。
/1048ページ

最初のコメントを投稿しよう!

47646人が本棚に入れています
本棚に追加