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「あのさ、リーズロットさん」
俺は、まず会話する事にした。
「はい、何でしょうか?」
返答は至って普通。
ついさっき俺に向けて抜刀してきた人とは、とても。
……俺に対する拒絶反応が、割と表面的なモノになってるのか?
だとしたら有り難いけど、どうだろうな。
「俺は今君に、ある重要な話をするかどうか迷ってる。迷ってる理由は、道徳的には話すべきだけど、話した場合の君の行動が読めないから」
慎重に言葉を選び、伝える。
リーズロットさんの表情は真剣で、こちらの話をきちんと聞いてくれている。
「だから、一つ確認させて欲しい」
そう、確認は一つ。
「リーズロット=キャヴェンディッシュは、現状における最優先事項を『結城宗助のもとへ戻る事』として、それが達成されるまでの間の優先度を維持出来るか否か」
復讐を、最優先事項にしてしまわないか。
「随分と、回りくどい言い回しをするのですね。余程疚(やま)しい事があると見えます。……いえ、見せているのでしょうね」
そりゃ、疚しさ満点だからね。
誠意を持った対応をするには、そのくらい分かり易くしないと。
「貴方なりの誠意だと受け取っておきます」
澄み渡った青空の様な双眸は、俺の思いを正確に見透かしていて。
「返答がまだでしたね。……『保証までは出来ない』、というのが正直なところです」
返ってきた言葉には、一切の虚偽が無さそうだった。
「今の貴方が私を騙そうとしていないのは分かりましたから、私も正直に答えました。望む答えは得られましたか?」
成る程、ね。
「許容範囲内には、収まってるよ。これなら、いっそ話した方が得策だ」
俺は覚悟して白状する事にした。
「シオン=バスティアがアインに所属している」
ダンッ、と。
「一歩だけ」動いたリーズロットさんの足音が、酷く響いた。
「一歩で踏みとどまってくれて、ありがとう」
端から見ても奥歯が砕けるのではないかと思う程に強く、歯を食いしばっているリーズロットさん。
手には彼女の愛剣が握られており、関節が白くなる程に力が込められている。
「いえ……、貴方こそ、良く私に教えてくれました。最初に教えるのを渋ったという事は、事情はご存知なのでしょう?」
部屋の扉の方へと向いていた身体をこちらに向け直しながら、努めて冷静に振る舞う戦乙女(ヴァルキリー)。
それでもなお、溢れる殺意は隠しきれない。
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