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「知っているよ。だからこそ君に話した訳で、だからこそ話したくはなかった」
リーズロットさんは、じっと俺を見ている。
憎悪の念が多分に含まれたその視線はしかし、本当の意味で俺に向けられてはいないんだろう。
「では、何故私に?」
当然に過ぎる疑問。
答えは既に用意している。
「あの『白蛇』が、リーズロットさんに対して善からぬ事を企んでいる様子だったからさ。それに対しての警戒をしておいて欲しくて。……ああ、『白蛇』ってのはシオン=バスティアの事なんだけど」
顔が長くて白衣を着てるから、と補足説明すると、納得された。
勿論、嫌悪の意味を多分に含んでいる事は言わなくても分かっただろう。
「警戒と言われましても、具体的にどうすれば? 『白蛇』が私に何をしてくるのか、分かっているなら対処も出来ますが」
名前も言いたくないのか、リーズロットさんまで「白蛇」呼び。
まあ良いけど。
碧眼の双眸が俺の姿を捉える。
今は、比較的落ち着いた視線だ。
「分からないから困ってるんだよ。確実に何かを企んでいるって断言出来る訳でも無いし」
ただ何も無いとは思えないってだけで。
確証は、何も。
「……あのさ、また一つ確認させて貰って良いかな?」
仮にも敵であるリーズロットさんに、何度も確認を取る事の愚かしさは分かってるつもりだ。
けど、彼女の言葉は信用に足るモノだという確信があるし、他に方法も無い。
「答えられる事なら」
その言葉に満足した俺は、俺史上最大級に愚かな確認をする。
「君の機器(デバイス)、インスタンスに魔力を満タンまで込めて渡したら、この場から脱出しようとするかな?」
頭の中から罵詈雑言が聞こえてくる気がするよ。
自分でも正気を疑いたくなる事を言ったし。
リーズロットさんからの視線も───、これは酷いな。
「……大丈夫ですか?」
慈愛に満ちた視線で心配されてるよ。
こんな視線、飛鳥からだって向けられた事無いよ。
「もう正直に話すよ。俺は君を最初から宗助の所に必ず返すつもりだ。それも、無事に。何か小細工をする訳でも無く」
何やってんだろうな、俺。
「そんな事はもう察しています。今更何を」
……何やってんだろうなー、俺。
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