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「そっか、それなら話は早い」
切り返しは早く。
「それで、どうなのかな? 確認はまだ終わってないよ」
リーズロットさんは溜め息混じりに口を開く。
「貴方が居ないタイミングを見計らって、最優先で脱出を試みるでしょうね。……復讐の相手が居る事を既に知ってしまった私ですが、あの男がアインに所属していると言うのなら、いずれにしても機会はあるでしょうし」
成る程。
良し分かった。
「半分だけ、インスタンスに魔力を入れておくよ。その量なら脱出は非現実的な話だし、『白蛇』に対してそれなりの自衛は可能な筈だ。云わば保険だね」
俺のその言葉に対し、リーズロットさんは何とも言えない表情を見せる。
「そこまでするくらいなら、いっそ私を帰して欲しいのですが」
いや、その意見は分からなくも無いんだけどさ。
「悪いとは思ってるけど、タイミングってものがあってね。あともう少しだけ、それは先の予定にしてるんだ」
予定を前倒すかどうか、悩まなかったと言えば嘘になるけど。
でも───ギリギリまで、保険は掛けておきたいから。
我ながら酷い奴だとは思ってるよ。
「貴方の勝手な予定に付き合わされる、こちらの身にもなって欲しいものです」
じっとりした視線が絡み付く。
……いやホント、申し訳無いんだけどさ。
ははは、と乾いた笑みを浮かべると、無言で首を横に振られた。
俺だって、私情全開で言えばさっさと人質交換したいさ。
「まあまあ。とりあえず、インスタンスを貸してよ」
やる気ゼロのなだめ方をしつつ、リーズロットさんに右手を差し出す。
手を差し出されたリーズロットさんは、一瞬何か考える様な仕草の後、俺にインスタンスを渡した。
「ん、ありがとう」
抜き身で刃の方を差し出されたりしなくて良かった。
結果を見れば失礼極まりない安堵の仕方をしつつ、俺はインスタンスへ魔力を込める。
───シオン=バスティアの接近を解除条件とする、予備魔力タンクを増設。
容量は通常タンクの五割。
通常タンクへの魔力注入、予定通り五割。
「はい、完了。もう返すよ」
何事も無かったかの様に、しれっと。
俺はインスタンスを差し出す。
「何か、した様ですね」
冷たい視線が俺を突き刺す。
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