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「城内で空いている部屋はありますか、キャヴェンディッシュ中将?」
ユウキ殿が諦めたのはソレか。
「幾つかあるが、良いのか?」
父上の返答は、ユウキ殿の意図を汲んだ先のモノ。
「私───いや、もう『俺』で良いですね。俺はフィリスでも居候の身ですし、リズに一ヶ月間往復を繰り返させるのは酷でしょう。勿論、城内が無理だと言うのであれば、近場の安い宿で構いません」
今更ながら、私はふと思った。
ユウキ殿は、真面目な話をしようと思えばとことん真面目な話が出来るのかと。
「俺がベクタに滞在した方が、何かと都合が良いと思いますので」
こちらとしては、全く以てその通りなのだけれど。
「……仕事とは言え、申し訳無い。娘の命の恩人に不自由をさせてしまって」
父上がまた、ユウキ殿に頭を下げる。
今度は私も頭を下げた。
「どうかお気になさらず。俺の話を聞いた上で普通に接してくれる貴殿方には、むしろ感謝しているくらいですから」
嫌味を感じさせないその言葉を聞き、酷い罪悪感が私を襲った。
「宗助さん、宗助さん。キャヴェンディッシュ中尉の心が折れそうなんで、その辺りで勘弁してください」
そしてその直後の、マクダネル少尉の言葉。
「……ッ、マクダネル少尉!」
私は声を荒げた。
すると、ユウキ殿が私を見るのは当然で。
「あ……いえ、何でもありません」
こんな見え見えの嘘を吐く私は、どうしようも無く滑稽で。
「……済みません、ユウキ殿」
残る私の選択肢は、謝るだけで。
「ええと……、良く分からないけど、仕方無いさ」
その無茶苦茶な慰めが、妙に心に染みた。
苦笑いが優しげに見えたのは、初めてだった。
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