住めば都?

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「出来た、と」  ベクタの外、草原の中。  背の低い草があちらこちらに生え、雨の日は水溜まりになるであろう窪みが点在している。  普通の乗用車では、非常に乗り心地が悪そうだったので。 「馬は要らないと仰いましたが、これは一体……?」  そう、だからコレ。 「ジープと言う、乗り物だ」  重厚感のある深緑色の車体に、大きく真っ黒なタイヤ。  悪路を走行しても衝撃を吸収してくれる様に、サスペンションも再現。 「一度こう言う車に乗ってみたいと思ってたんだよな。高級車には興味が無かったけど」  そう言って、助手席のドアを開く。 「さあ、どうぞ中へ」  ジープに乗り込む様、リズを促す。 「何だか良く分かりませんが……入れば良いのですね?」  俺が無言で頷くと、リズは車内をキョロキョロと見ながらシートに座った。 「閉めるぞ」 「あ、はい」  一応注意を促し、助手席のドアを閉める。  そして、俺も運転席に座る。 「あの、ユウキ殿。これはどうやって動くモノなのですか? 確かに車輪は四つ付いている様ですが……これでは直進しか出来ません。そもそも、進めるモノが見当たりませんし」  内装もしっかり実現できた事に満足していると、リズが不思議そうに訊いてきた。 「それは行きながら話そう。それから、シートベルト───これを締めておいてくれ。留め方は見ての通り、これに差し込んでやれば良い」  百聞は一見にしかず。  見て貰った方が、説明するにしても楽だろう。  そう思い、キーを差し込みエンジン始動。  ブルルン、とエンジン音が響くと、シートベルトを締めたリズが肩をビクリと震わせた。 「な、何ですかっ!?」 「コイツの原動力の音だ。進むぞ」  クラッチを踏み、ローギアに入れる。  アクセルを軽く踏みながらクラッチを放すと、車体がゆっくり前進を始めた。 「騒々しい音の割には、大人しい乗り物なのですね……?」 「いや、そんな事は無いぞ」  クラッチを踏み、ローからセカンドへ。  その後次々に、ギアチェンジ。  セカンドからサード、サードからトップ、トップからオーバートップ。  加速、加速。 「はっ、速過ぎますよユウキ殿ッ!?」  リズの悲鳴にも似た声が聞こえたのは、速度メーターが時速百キロを越えた辺りだった。
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