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三日月が上下反対に見える。私が仰向けになって寝てるから、当たり前なのだが。なんだか睨まれてるように見えるのは気のせいだろうか。
そんなことを思ってぼんやりと空を眺めていたらあっという間に雲に隠されてしまった。
「あ…」
「何を見ている?」
私が小さく呟くと頭上から低い声が降ってきた。両手首を拘束して馬乗りになっている男が私の視界と窓の外の風景の間に割り込んでくる。
金の髪をまるで獅子の鬣のようにセットして、耳には大袈裟な銀のピアスがしきりに存在をアピールしている。
瞳の色も顔立ちも純日本人であるというのに、この男にとてもよく似合うといつも思う。
電気がついていないアパートの一室。月が隠れたのにしっかりと「それ」が視認できるのは、街灯の光が窓から差し込みぼんやりと輪郭を写し出すから。
「なぁ、どこを見てる?」
黙ったまま彼を見つめる私に再度訊ねてきた。
「…月が雲で隠れてしまったんだ」
綺麗だったのに残念だ、と小さな溜め息を洩らすと、いきなり唇を塞がれた。
それは愛し合うためのキスというより、自分の存在を無視する私への憤り。と、私の意識を自分に向けさせたいという子供じみた欲求。
或いは餓えた獣の捕食行動のそれだ。本能的に唇を貪っている。
気持ちいいとか、胸の高鳴りとか、そんなものはなく息苦しいだけで、目の前の男はこのまま自分の呼吸すら喰らい殺そうとしてるのではないだろうか。そんな考えが酸素不足で朦朧とする脳裏を過る。
でも、私は彼を止めようとはしない。逃げもしない。拒むことをしない。
受け身の体勢で彼の動きに合わせ舌を絡ませたりたまに小さく唇を食む。
ようやく解放されると足りなくなった酸素を取り込もうと深く呼吸をする。急激に取り込んだせいか、肺が痛む。
「俺を見ろよ」
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