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拘束を解かれた自由な腕を男の髪に伸ばす。
ワックスで整えられた髪は固くてごわついて触り心地いいとは言えない。
「寂しさだけで求め合ってるんだきっと。お互いに、ね。だからお前は私を諦められないし、私も拒まない」
お互いに一人にはなれない。一人は苦しくて寒くて暗くて悲しいことを知っている。
私は前の男に。この男には誰かが。二人だけが知る融け合うことのない痛みだ。でも求めてるのは同じ1つ。なのにどうしてこんなにも噛み合わないんて。同じ傷の痛みを舐め合ってる筈なのに。なんて
「惨めだな、私たちは」
「報われないな、俺たちは」
「そうだな…」
「それでもいい」
男が真顔で。真摯な表情を浮かべ、言った。惨めで滑稽で報われない関係でも構わないと。
「…馬鹿な男」
「バカでいいよ、あんたが此処にいてくれるなら」
暫くの沈黙。の後、お互いに抱き合う。体の境界線がゼロになる。
ああ、なんだか泣いてしまいそうだ。
「俺はあんたが好きだ」
「知ってるよ」
「好きで好きで、堪らない」
「だから、この関係のままでいいとでも?」
「それはいつか変わるかもしれないって期待してる自分もいるし、でも変わらないならそれでもいい」
何故、と私は問う。
「傷の舐め合いでも、なんだっていい。お互い寂しいんだろ?あんたが俺を拒まないでくれるなら、俺がそれを利用するだけだ。あんたが寂しさを埋めるのに俺を利用するのだってかまわない」
ただ、あんたが欲しい。
静かな夜の部屋の中、返ってきた言葉は狂気を孕んだ熱のようだ。私にもその熱が移ったのかじりじりと胸が焦がれたような気がした。
男の私を抱く腕の力が強まる。私も答えるように大きな背を強く抱いた。
「本当に馬鹿なヤツ」
「バカでいい」
「じゃあ、私もお前に付き合って馬鹿になってみようかな」
男の抱いていた腕が離れ、至近距離で見つめ合う形になる。吐息が唇を、鼻を掠めてなんだかくすぐったい。
「私はお前が欲しいよ」
抱いてくれと呟くとまたあの息苦しいキスが私を襲う。初めと違って胸が高鳴ったのは彼への恋の始まりか、それともこの先にある恍惚と快楽に私の中の「女」の性が反応したのか。
私には解らなかった。
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