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痛みの連鎖
彼と私の出会いは些細なこと。小さすぎてきっかけなんて忘れてしまった。気が付いたら同じ部屋で同じ時間を過ごし、時には肌を重ねた。
気兼ねなく付き合えて私は楽だった。非生産的な他愛ない会話、目的もない外出。周りから見たらとんでもなく味気ない関係だろう。それでも私は満足だった。あまり大勢の人間と関わりを持ちたがらない私の数少ない心許せる人間が彼だ。
執拗に過去を詮索することもなく、あれこれ注文してくることもない。問題があるとすれば、過剰なスキンシップと愛情表現。
手持ちぶさたになれば抱きつき頬を擦り寄せたり、私が吐きたくなるような台詞を平気で言ってみせる。でも嫌じゃないから私は拒まない。
甘さも色気もない私と彼の関係は、静かで穏やか雰囲気を纏っていた。
ただ。
私と彼は『恋人』ではない。
壊れたのはある夜の出来事。
壊したのは、男の方からだった。
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