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見上げると、抜けるような冬の青天井が見渡せた。
半径三十メートル程の広さの建物に天井はなく、高い壁で囲われていただけだった。
そこに集まる人の群れ。
すし詰め状態の市民と、観覧席に座る貴族。一番高い位置にいるのは、フォールバレー王国の王と、その娘スノウだ。
中央に設置されたのは処刑台。
罪人の首をはねる為だけに作られた物。
そして鎖に繋がれ、その断頭台に登らされているのは、とある魔族の少女。
罪状を読み上げる男が口にした名前は、メリル。
先日国中を混乱させた魔物の軍隊を指揮した罪で、死刑を言い渡された。
拘束され、今まさに死を宣告された彼女の瞳には、一切の光彩がない。
生を諦めた者の表情だった。
そして俺は。
『処刑人』として、彼女の隣に立っていた。
俺は合図を待ってから、躊躇いなく彼女に向かって剣を振り下ろした。
──なぜ俺がメリルの処刑人を引き受けたのか。
その説明には、まず二週間程前までさかのぼる必要がある。
そこから、巻き込まれ勇者の物語は再開する。
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