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視界に入ったのは大きな両開きの扉とそこから伸びる蛍光灯の光のようなものと逆光になって顔の見えない人の形をした二つの影。
そのうちの一つは左右に何かがあるようなシルエット。
コツコツコツ、わざと音を立てているのか革靴特有な靴音が耳を掠める。
「……若宮真琴、でいいんだよね?」
「えぇ、間違いありませんよ。若宮悠太の母方の従妹です」
「なんかあまり似てないね、目元がちょっとダブる程度かな。あっちの方が美形だったよね」
「ヤバイくらい目付き鋭かったですが、美形ではありましたね」
その言葉に真琴は今まで感じていた感情すべてが鳴りを潜めた。
悪意を持つ持たない関係なく掃き捨てるほど口にされてきた自分にとっては貶しの言葉。
悠太にとってももう耳にしたくない言葉の一つでもある。
逆光が消え、彼らの顔を見たとき真琴は吐き気を覚えた。
美しく神々しいとすら感じるだろう顔の造形。洗練された動きや声の美しさに中学のときや今の高校時代に嫌というほど目にしてきた自分に自信を持つ輩が群がると予想に難くない類の美形。
「……面食いが……ッ」
「えっ何が!?」
「確かに世界神様は面食いです。よく見抜きましたね真琴さん」
「セラフ!? 人間呼ばわりから急に名前呼びって態度変わりすぎじゃない!?」
「ところで真琴さん、気を失う前のことを覚えているでしょうか」
「勝手に話を進めないでよー……」
「話が進みませんからもう黙ってください。それで真琴さん、どうなのですか?」
気付いたら絞りだすような声で吐き捨てていた言葉に何故か好感を抱かれたことに唖然としながら、真琴は白い装束を身にまとう左右に何かがあるようなシルエットをした人物がこのセラフと呼ばれた男なのだと理解して口を開く。
「覚えています、何故なら私はコーヒー牛乳を飲むという至高の時間を邪魔されたんですからね」
「あ、あのコーヒー牛乳のパックですか。今飲んじゃいます?」
時間止められなかったから回収したんですよと平然と言ってのけられ、真琴は別段気にした様子もなくかすかに頷く。
今まで無表情で語らっていたセラフなる男性は真琴の反応にパッと笑みを浮かべ両手を合わせ一回だけ大きな音を立てる。
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