第一章:従兄が異世界召喚。主人公は人間やめさせられました。

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だがこのままでは話が進まないと割り切り、腹を括った人外代表の世界神は声が震えないように細心の注意を払いながら口を開く。 「さっきから言っているように、キミの巻き込みは予想もできないものだったのね。だから用意していたすぐに付与できる力は一人分……つまりキミの従兄の分しかなかったんだ。今から用意するにもこちらとあちらでは空間の時差もある。ましてや私より位の高い神に許可も取らなければならなくて。だからキミに力が付与されるのはあちらで三ヶ月経ったあとなんだよ……」 真琴の目を見ることはできなかったが、世界神は誠心誠意を込めて説明をした。 ただ今まで休む間もなくつまんでいたお菓子を食べることをやめ黙って聞いている真琴に表情はなく、なのに肌を突き刺すプレッシャーは健在で、セラフィムは不安に駆られる。 すべて真実、すべてありのままのことだと、あらゆる神の補佐を担当する熾天使の最高位として、それは誓える。 だけど、こんな話を誰が(人間が)信じるのだろうか? 疑い深い人間は今日会った人物(天使と神だが)から聞いた嘘のような話をすぐに信じることができるたろうか。 答えは否にして応。そんな人間がいるのだとしたらそれは少数に分類されること必至。 「……シリアスは苦手なんだけどなぁ」 ぽつりとこぼした真琴も例にもれず疑う人物であった。信じることができるのは何もないか少数だと常日頃から思っているのだから。 だが、だからといって最初から何も聞かずに突き返すことは嫌いだった。 そのせいか騙されることも幾度かあり、傷つくことを恐れ耳半分で聞くことに慣れ親しんだ日常。 味覚で表すなら現実は辛く夢は甘い。辛いと甘いとでは、真琴だったら甘い夢幻(ユメマボロシ)を選択してしまいたい。甘過ぎるのは胸焼けがするので遠慮被る(コウムル)が。 楽な道にすがりつきたくなるのは人間の心理にとってよくあることだと兄がハイテンションをそのときばかりは失せさせてぽつりと言っていた。 信じない、と言うのは簡単。 逃げる、と選択するのは簡単。 「……真琴さん?」 セラフィムの訝しんだ声音に、真琴は無表情とプレッシャーをやっと崩し苦笑を浮かべる。 ――なら、逃げずに信じてみようかと真琴は思考を決着させた。
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