巻き込まれ系は、不幸に見舞われるか生み出すかをよくします。

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穴の空いた腹の爛れた皮膚が、塊に押し出され飛び散ったはずのモノが、まるで生きているみたいにうぞうぞと動き、途中で出会ってはくっつきまたうぞうぞと横たわる少女に向かっていく。 それを繰り返しあるべきところにピンク色の脈動するモノが収まり、それを待ち望んだ皮膚が瞬く間に再生を果たす。 もちろん血はもうあふれておらず、真琴の体の中を掻き毟るように走り回っていた激痛も治まっていた。 少女の悲鳴の余韻が反響する空間で、獣は目を見開き呆然とゴホッと血を一回吐き出した少女を見据える。 「――なんで、」 そんな獣の視線には見向きもせず、上体を起こした真琴は息切れの合間にぽつりとこぼす。 生きていることは嬉しい。だが、これはなんだと真琴は震えていた。 ただ腹の箇所に穴が空き赤にまみれた白いシャツが、先ほどまでの真琴の身に起こっていた出来事を証明する。 こんな自分に起きた気持ちの悪い奇跡に、真琴は一つだけしか思い当たる節がない。 不思議な空間で甘い水かと思って飲んでしまったギリシャ神話に出てくる飲み物ネクタルの効果で不死になったと、事の元凶に軽い調子で告げられたのをふっと思い出したのである。 「……不死、死なない体……」 真琴は小刻みに振動する両手で頭を抱える。 不死とは死なないこと。どんなに痛くても、どんなに死にたくても絶対に死ねないこと。 真琴は乾いた笑い声を立てる。 やっと実感した。 「ワタシは人間じゃなくなったんだぁ……あはっあはは、あははハハはハハはは」 戦意を喪失した獣はただ、巨体を瞬く間に縮ませ普通の狼と同じ体長となってから、そんな震える少女を一つとなった尻尾で包み込んだ。 温かな体温を直に感じながら、光を失った瞳から透明な雫をあふれさせる真琴はいつしか獣に寄りかかり眠りについていた。 ――そんなやっと訪れた安息を土足で踏み躙る輩が忍び寄っていることに、いろいろありすぎて疲労していた真琴は気付かなかった。
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