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「……知らない天井だ」
ハッと目を開けて真琴は間を置きそうつぶやいた。
少し満足げに頷くも、後ろ手に縛られ体の自由が利かないことに首を傾げる。
『目を覚ましたか、嬢ちゃん』
天井と見なした鉄の板と柱、そして周りの異様な光景に視線を走らせていると、小さな声で背後から声をかけられる。
なんとか起き上がり背後を見れば、そこにはなんだか見覚えのある茶色い毛の獣が一匹、四本の足に枷をはめて寝転がっていた。
「……どちら様」
『わからないのも無理はない。まずは謝っておこう、すまなかった嬢ちゃん』
「うは……狼モドキが喋ったぁ……」
『嬢ちゃん、それはなんか今更だな。そして言葉のキャッチボールをしようか』
呆れたように返してきた獣にぽふっと寄りかかり、獣くさいとぼやく真琴は何故こうなったのかを思い返す。
今の状況はさながら拘束された罪人だ。
こちらに来て早々罪を犯したつもりもない真琴は、ふっと自分が錯乱したことと寄りかかっている獣に殺されかけたことを思い出して溜め息を吐く。
「……何故こうなった」
『それを説明しようとしてたんだよ、嬢ちゃん』
「ほうほう……説明よろしく、狼モドキ。訳してオモチ」
真琴の意味不明な言葉に一瞬沈黙するも、狼モドキ、訳してオモチは口を開きこうなった経緯を説明する。
真琴が泣き疲れて眠ったあと、森に侵入していた密売人に見つかり抵抗も虚しく捕まったこと。
そこから奴隷商人に売られ、商品として拘束されたこと。
そして商人から客に買い取られその者が所有する牢に入れられ、今に至るということ。
「……眠っている間になんてこと……イベント乱立は遠慮するわぁ……眠い」
『呑気だな、嬢ちゃん』
「オモチも大概よー」
聞き終えた真琴はゴロゴロと獣くさいとまたぼやきながら、これからどうなるのだろうと彼方に思いを馳せる。
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