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胡坐をかいてぼうっと鉄格子付きの窓越しに広がる紅い月とその後ろに輝く白い月を眺めて「あぁ、異世界や……月が二つある」とつぶやき、しみじみと浸っていると、
「……ちょっと、あんたなんでそんな落ち着いてるのよ」
と、なんだか近くから声をかけられ首だけ振り返ると、そこには呆れ顔をする白衣をまとった目に痛いような根元が紫、中間色が赤、毛先が青という三色に分けられた長髪を一つに束ねた線の細い男性が立っていた。
「……なんででしょうかね」
「呆れた娘ね。ほら、測定するから立ちなさい」
無表情で返せば彼は肩を竦め、今度は幾分優しく鎖を引っ張る。
扉からえっちらおっちらと出れば、そこにいる男性二人も鎖を引っ張るオカマとは違う色だが三色に分けられた髪を有していた。
「……(三色団子ならぬ)三色の髪……」
「あら、驚いた。今頃気付いたのあなた。アタシ達の髪に」
立ち止まったことに咎めはあらず、研究員二は真琴の細い腕を拘束する枷を外す。
「あなたも聞いたことあるんじゃないかしら? 親や友の罪を肩代わりさせられた者の話。名を奪われ、この世をさすらい、自身の欲求を満たすことだけを心の支えにする“業を背負う者”」
静かに説明するオカマに、真琴は内心困り眉。
この世界で常識とされる歴史はもちろん、噂話や伝説などの知識を一切与えられずに送り込まれた生まれたばかりの赤子同然の少女が知るはずもないからだ。
「少なくとも、アタシ達三人はソレよ。アタシは友の、二人は肉親の罪を背負わされた人なの。その証として髪が三色なのよ」
「……研究員一とかで呼び合ってるのも、名がないから」
「ご明察。あなたは珍しい黒髪に黒目だけど名前はあるんじゃないかしら? アタシ達に実験動物として買われてしまったけど、親に売られたの?」
真琴は自由になった手首を擦りながら首を振る。
「怪我の療養中、一緒にいた獣とともにいつの間にか売られてた。多分寝てる間に襲われ攫われた」
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