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それを確認してまた紙に書き込み、研究員六は一言「報告してくる」と残る二人に向けて伝え、窓はなく蛍光灯は切れているか点滅を繰り返すかする薄暗い研究室から去っていく。
残された二人は真琴の腕に枷をはめ直してから先ほど押し込んだ小部屋にまた押し込み、埃を被った部屋の掃除を始める。
音と掛け合う声でそれを知った真琴はついと視線を窓に向け、紅く輝く月を見上げる。
「……実験動物、か……」
研究員六が去る前に小さな声でやりとりされた“魔盲”の単語が耳の底にこびりつく。
力がないと測定されたのだと真琴は理解し、それと同時に平和が崩されたことに今の今まで麻痺していた感情が解かれ絶望と憎悪を抱く。
死なれたら困るが死ぬはずのない体にされたこと、これからの生活に希望が見えないこと、優しい従兄との行き着く道の違いにひたすら恨み言を吐く。
「――クソッタレ」
目を伏せ真琴はそれでも再会は叶うのだろうか、怪我はしてないのだろうか、やっぱり王道を通っていくのだろうかと微笑む従兄の姿を思い浮かべて疑問を並べる。
「……神のバカヤロー」
どうか彼が自分以外にも笑っていてほしい、真琴の言葉にされなかった想いは胸中で留まりそっと奥に仕舞われた。
――そして真琴は研究員二から“シン”と名付けられ、実験内容を研究員六に律儀に伝えられ一ヶ月をほの暗い小部屋で過ごす。
セミロングだった黒髪は艶をなくし、ぼんやりと窓の外を見上げる黒目に揺らめいていた光は消え失せ、食事は一日に一回は与えられるも残飯で量は少なく、頬は痩せこけ小柄な体は細く折れそうに見えるほど、目に見えて衰弱するシンとなった少女は繰り返される無茶な要求に心を閉ざし考えることをやめた。
暇を持て余していたときに見つけた部屋の片隅で転がっていた金属の棒で夜が明ける毎に脆くなっている箇所の壁に刻み付けていった七本の線が一ヶ月を指す、そのときまで。
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