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壁に寄り掛かり眠りについていた痩せこけた少女はふっと瞼をあげ首を回して辺りを確認する。
変化のない薄暗い小部屋に気のせいかと結論付けまた眠りにつこうと壁に寄り掛かると、体に伝わる不規則な揺れに気のせいではないと目を見開く。
「な、に……」
久しぶりに出した声は擦れていたが気にしてられないので意識の外に追い出し、腕から足に代わった鎖の先に重りが付いた枷のせいで動くこともできず、シンとなった少女真琴は不安に駆られる。
扉の向こうがなんだか騒がしく、尋常でないものものしい雰囲気が伝わってくる。
麻痺している思考では、ただこの状況に見合った設定が頭の中でよぎるだけ。
「……ふく、しゅー……ぼうそー……主人公や」
つぶやいた言葉の最後だけ、やけにはっきりと聞こえたのは気のせいではないだろう。
と、そのとき大きな音とともに金属の扉がめり込み、次には吹き飛ばされた。
目の前を通り過ぎていったのに心臓が爆発するも、入ってきた者により一層目を見開く。
「……オモチ」
『久方ぶりだな、嬢ちゃん』
体を覆う毛の色が銀色に変わり、足だけが茶色のままの額に鋭く尖る角(ツノ)に尾が二本の巨体な狼モドキ。
一ヶ月前に別れたきりのオモチが扉から顔を覗かせていた。
「……おー……何故、ここに」
『話はあとだ。ここはもうじき崩れる。その前に脱出するぞ』
「……うい」
扉を抜けるために巨体を縮めて近寄ってきたオモチが重りを繋ぐ鎖を初めて会ったときに見た青白い塊で溶かし、普通の狼サイズより一回り大きいサイズになったオモチの体に真琴はのそのそとまたがって毛を掴む。
『しっかり掴まってろよ、嬢ちゃん!!』
「おぅけぇ、オモチー」
発音が若干心配になるが、オモチは扉に向かって突き進む。
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