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その先には見慣れた三人が焦った様子で研究室の入り口から顔を覗かせていた。
狼モドキの上に乗る“シン”の姿に彼らは目を一瞬見張るが、次には微笑み入り口から俊敏な動きで引き速度を落とさず駆けるシンに向かって手を振って見送ってくれた。
三人だけは無茶な要求をせず、一日一回しか与えられない残飯もある程度綺麗なものを持ってきてくれ、実験動物である自分によくしてくれた。
だがそんな彼らは攫われてきたとはいえ魔界という国にとって一研究員だ。魔王が力を入れている兵器候補としての実験動物を見逃すことはそんな魔王に反旗を翻すと同意。
バレたらただでは済まされないのにも関わらず、彼らは笑って見送ってくれた。
「従兄に会いに行け」
「やっと自由だ、そのまま突っ走れ」
「シン、どうか元気でね」
ここ一ヶ月で言葉をかけてきた優しいがやはり研究員である彼らの内に秘めていた想いを知る者としては、少女はその結果に抵抗を覚えるも止まらない。止まれない。
大きな声で別れを叫ぶ彼らに、枯れたはずの涙が一筋流れる。
彼らの姿に誰かを重ね、真琴は久方ぶりに思う。
――自分を人間から化け物にした彼らに、笑顔を永久に。
「ありがとーっ お元気でぇーってかちゃんと逃げてねぇー!!」
無知であった自分にある程度の知識を与えてくれた“業を背負う者”に感謝と願いを述べれば、オモチは少しだけ笑みをこぼす。
相変わらず呑気な嬢ちゃんだ、と小さな声でつぶやかれた言葉は少女の耳には届かず風に呑まれて消えた。
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