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再び魔方陣を地面に書き込む作業に戻った真琴を横目に、オモチは辺りを警戒する。
真琴が平然と言ってのけた言葉に一理あったからだ。
今は追っ手に怯えて魔界というフィールドにまだ体が思うように動かない獣となんの能力も持たない(持っているのは死なない体と毒の耐性。十分な気がする)小さな少女の一人と一匹が逃げ惑っている事態。
そんな厄介すぎる事態を打破できるなら無理してこのフィールドにいることはない。
屑に狩られるなんてまっぴら。転移が使えるなら、使ってこのフィールドから脱出してまだマシだと思われる人界で逃げ回っていた方がいい。
一度思考に決着を付けたオモチは真琴の邪魔をする者を排除することに集中する。
『(……遠くに数人いる程度か……)』
普通ならもっと時間がかかるはずの追っ手。
研究所は火の海にされ崩壊し、その騒ぎに乗じて実験動物もしくは研究員までも逃亡する事態。
自分は研究資料などは見つけ次第燃やし、少女を救出して今に至るオモチは真っ白な紙の上にぽつんとある一点の染みのように鈍く続く不安に舌打ちをする。
早い、何もかもが。
仕組まれていたのか、と不審に思わずにはいられない放たれた追っ手の存在に焦りは募る。
「……オモチ」
『……どうした、嬢ちゃん』
悶々と考え更けていたオモチの表情の難しさと放つ焦りに内心穏やかではない真琴は手を休めずに口を開く。
「あの研究所に、一体何が遭ったの?」
ずっと気になっていたことも添えれば、オモチは視線を真琴に一度向けるだけで警戒体勢を緩めずに答える。
『一人の実験動物の暴走だ。まだ幼い少年だった』
脳裏にこびりつく白銀の少年の姿と一瞬で燃え尽きた研究員の姿。
そして崩壊を始めた建物に焦り、会って間もなかった少女が頭によぎったときには目の前の格子を破壊していたので、そのあとは知らないオモチ。
再び思考の波に呑まれたオモチは気付かなかった。
こんなときなのに顔を明るくさせる不謹慎な少女の笑みに。
「(主人公格やっぱいたぁーーっ!!)」
少女の内心に湧き出た歓喜の叫びに。
オモチは気付かなかった。
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