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「どうしてこうなった」
呆然とこぼす言葉は、目の前に迫り来る無慈悲の咆哮に向けたもの。
傍らには銀色主体の手足茶色の狼モドキ訳してオモチはおらず、ただ一人で剣を手にして歓声あふれるこのバトルフィールドに立っている真琴。
「……死ねばいいのに」
次にこぼした言葉は、観客に宛てたもの。
身も心も腐った輩に宛てたものであった。
――何故真琴がこんなことになったかといえば、理由は簡単だ。
転移魔方陣は作動したが、真琴はオモチと違って人界に降り立ったことはなく、しかもランダム設定にしていたため触れていなかったオモチと離れてしまい魔界の何処かに落とされた。
そして運悪く真琴がランダム転移をさせた追っ手に見つかり、抵抗する間もなく拘束され、研究所ではなく魔界の貴族御用達の隠れ闘技場に引き渡された。
日本という平和な国に生まれた真琴にとって、殺し合いという物騒なことは体験したことのない代物だ。
生きたければ殺せ、と一言だけ残されてショートソードを手渡され早速フィールドに出された真琴は放心したまま鎖に繋がられた複数の特徴を持つ理性なき獣、“キメラ”と呼ばれる存在を見つめた。
そしてキメラが咆哮をあげ、それに高価な宝石で着飾った貴族が歓声をあげ、真琴は呆然と言葉をこぼしたというわけである。
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