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顔を赤くさせ慌てた様子で悠太が抗議を唱えると、真琴はクスッと笑い安心させるように言葉を紡ぐ。
「冗談だってば、本気にしないでよ悠ちゃん。それに悠ちゃんに彼女できたとき困るでしょ。悠ちゃんカッコ可愛いからモテるし」
似た遺伝子を継いでるようには思えない、それが真琴の口にはしなかった主張。
悠太とは同い年であり、しかも同じクラス。
中性的で綺麗な顔をしている悠太と平凡極まりない容姿の真琴。
陰でいつも月とすっぽんだ、なんて言われているのを耳にする真琴にとって悠太は良き従兄であり羨ましい存在でもあった。
「……真琴」
「なぁーに、悠ちゃん」
「……ううん、なんでもない」
「……そうかい」
真琴が劣等感に苛まれていたところに悠太は気付きながらも何も言えなかった。
しばし無言で真琴は目玉焼きと味噌汁を、悠太はトーストと牛乳を口に運ぶ。
「……ごちそうさまでした」
「お粗末様です。悠太も早く食べちゃいなさいよ」
「わかってる!」
先に食べ終わった真琴はそんな会話を聞き流して、食器をキッチンに運び終えてからすぐに部屋に引っ込む。
やりかけのジグソーパズルの続きをするためだ。
だから真琴は知らない。
そのあと悠太と沙恵との間で自分のことを話していたなんて。
「せっかく同じ部屋にしてあげてるんだから、どんどんアタックしちゃえばいいのに。まこちゃんには本当に奥手ね、あんた」
「あんたのその迷惑極まりないお節介のせいで、俺は毎夜寝不足続きだよ。やめろ」
「……本当、あんたは二重人格かって疑いたくなるわ。このまこちゃん大好きっ子の猫かぶり」
「……否定できないのが悔しいんだけど……」
「まったくもぉ。まこちゃん小動物みたいで可愛いんだから、狙われるわよ!!」
「……母さん、ごちそうさま」
「あら、お粗末様」
真琴は知らない。
真琴は気付いていない。
そんないつもと変わらない日常が真琴の思いつきでありえない日常に変わるなんて、このときのジグソーパズルをやり込む真琴に真琴と己の部屋で漫画を読む悠太、家事をこなしていく沙恵、爆睡中で名前しか出てない兄弟も知る由はなかった。
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