陽炎

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「あちぃ…」 左手に持ったペットボトルをダルそうに振りながら、蝉の五月蝿い山道を歩く。 「誰だよ、山行きてぇなんて言ったマニアックな馬鹿は…」 シャツをパタパタさせながら、自分の横を歩く男を睨みつける。 「何言ってやがる…夏と言えば山、山と言えば夏って言うほど、この時期の山登りは快適なんだぞ」 ペットボトルを額に当て、死にそうな顔で受け答える。 「普通は海だよ、川だよ馬鹿!山行くぞ~なんて言うから、てっきり川があると思ったらガッツし登るからな。水着を持ってきた俺はなんだ?馬鹿なのか?」 「お前は馬鹿だよ、馬鹿がお前だよ糞が。詳しく聞かなかったお前が悪い。ゴキブリみたいにホイホイ釣られやがって…」 「おぅおぅ人を馬鹿呼ばわりして、しかもなんだ?糞だゴキブリだと人をコケにしやがって、帰るぞ?もう帰るぞ?」 「帰れ帰れ…もう八合目まで来て、ここで引き返す腰抜けはお前だけだ」 ペットボトルの水を飲み干し、カバンの中に空のボトルをしまいながら、バカにする。 「引き返すか馬鹿!絶対にこのあと飯奢ってもらうからな!」 「言ってろ」 愚痴をこぼしながら誰1人歩いていない山道を歩く。 こんな灼熱の日に山にいるのはこの2人くらいだろう。 しばらく歩くと、頂上に続く直線に入った。 「疲れたなぁ…ん?」 よく見ると地面の上がモヤモヤしている。 「陽炎見るとさ、なんかどっと暑さが増すよな」 未だに愚痴を零す友人に話しかける。 「あぁ?そうだなぁ…」 「ちゃんと聞いてんのかよ…」 「あちぃんだからもういちいちうるせぇよ…ったく」 水を切らしたせいか2人とも気が立っている。 吹きつける風も暑さで意味をなさないようだ。 (にしても…なんだろう…なんかおかしいような)
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