陽炎

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(妙に…範囲が広いような…こんなになるものなのか?) まるで大きな炎の塊のように前方の景色が揺らめいていた。 (暑いからな。きっとこういうもんだろ) 暑さは細かいことを気にさせない。頂上に近づくにつれて暑さが増していくのにも気づかないほどに。 「着いたなぁ!いやぁ絶景だ!」 「あぁ…そうだなぁ…」 「なんだよ感動が薄いぞ?お前が来たいと言ったんだろうが!」 「そりゃそうなんだが…どうにも…熱い…」 尋常じゃないほどの汗。夏にはよくあるだろうがもう時間も夕刻。そろそろ日も沈むだろう時間だ。 「ったく情けねぇ。小屋があるしそこで少し休んでろよ」 「あぁ…悪いな…」 小屋の手前の自販機でスポーツドリンクを買い、小屋の椅子に腰掛ける。 「あら?随分熱いわねあなた」 「うわっ?!」 (人?さっきいたか?) いきなり声をかけられて飲んでいたスポーツドリンクを思わず吹いてしまった。 「あらあら…驚かせてしまったみたいね」 「いえ…こちらこそ失礼な態度を」 「いいわよ。それより、貴方随分熱そうね」 「えぇ…まぁ…」 あまりの熱さに返事もしどろもどろ。どうしてかどこにいても涼しくならない。 「今日は熱いものね。陽炎もよく見るわ」 (…陽炎…) その言葉に反応したからなのか、先ほどの違和感が段々と自分の中で大きくなっていった。 「そう言えば、先ほど変な陽炎を見ましたよ。妙に大きいものを」 ついこの疑問を誰かに聞いて欲しくて女性に話しかけていた。 「へぇ。どんな?」 「いやぁ何というか、凄く大きかったんです。まるで炎の塊のような…」 「…貴方もしかして、その陽炎に触れた?」 「いやそんな、触れれる訳がないでしょう?自然現象ですよ」 妙なことを言ったのは自分だが、相手の女性も妙だと、少し笑いながら答えた。 「そう、ならいいわ。ゴメンナサイ」 「いえ、こちらも変なことを言ったし」 「…一つ忠告しておくわ。あまり日の光や、炎などに近づかないように」 「えっ?」 「いいわね。恋しくなるかもしれないけど絶対よ。これ使って」 女性は折り畳みの傘を男に渡して自分たちとは逆の出口から出て行った。 長い髪をなびかせてこちらを少し振り返った時の赤い目が印象的だった。妙に長いもみ上げも左右綺麗に整っていた。 「ていうかこんなところになんの装備もなく女性1人って、よっぽど山が好きなのか…これ、日傘にしろってことか」
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