陽炎

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暑さは一向に増すばかり。体力も限界なので山を下りることにした。 「それで?連絡先も聞かんとそのまま行かせたと」 「いやなんつ~かそんなこと聞けるような感じじゃなかったのよ」 下山にはロープウェイを使う。下山できる体力がもう残ってないのだ。 「ふ~ん。陽炎に触れるなんて、詩人みたいだな」 「結構マジメな顔してたぞ?あとねぇ…」 日傘を貰った理由を喋ろうとしたとき、丁度、ロープウェイは着いた。 (そういえば、あの人はロープウェイ側の出口で出たのにいなかったな。ていうか今更日傘ってもう日は落ちてるのに…まぁ熱いからさすけどさ) 彼はもううす暗いのにも関わらず傘をさした。気休め程度という考えでさしたのだがこれ幸いか、みるみるうちに熱さが引いていく。 (凄いな日傘。こんな効くものか?) 「お前こんな夜に日傘かい?馬鹿だなぁ」 「俺もそう思ったんだけどすげぇ効くぞ。何故か知んないけど」 「ていうかもっと明るいとこ行こうぜ。熱くないとさ、なんかこうシャキッとしねぇな!」 「さっきはあんなに熱い熱い言ってたくせに」 「やっぱ夏は熱くなきゃな!」 他愛のない会話をしながら友人と別れた。 それからと言うもの熱さは一向によくならなかった。家にいても熱い。どこにいても熱い。だが不思議とあの傘をさすと熱くなかった。家で傘をさす光景は滑稽だが、次の日の朝には熱さはどこかにいってしまっていた。 「よかった…でもこの傘はなんなんだろう」 外は相変わらずだが、昨日のようなこともない。学校の自分の教室に入るまでは。
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