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急いだって、もう終電はなくなってしまっている。
大きな欠伸をした鏑木と、会社から一歩出ると冷たい風が、少し気持ちよく感じた。
長い時間、会社に閉じこもっていた所為で、一月の風なんて本来寒くて堪らない。
「高橋さん。俺、タクシーで帰ります。
お疲れ様でした。」
「ああ。お疲れさん。」
手を挙げた瞬間、携帯が鳴りだした。
もしかしたらと、着信の音が聞こえたであろう鏑木も、俺の様子を見ている。
「はい。神谷か?」
『お疲れ様です。高橋さん。
今…、無事に産まれました…』
「…そうか。産まれたのか。
男の子?女の子?」
俺の言葉に、疲れ顔の鏑木の顔がぱあっと明るくなった。
『女の子です…。すっげー小さいです。』
電話の向こうの神谷の声は、疲れているのか感動しているのか声が震えていた。
いや…、もしかしたら泣いているのかも知れない。
「神谷。おめでとう。
眞依美さんにも、お疲れ様と伝えておいてくれ。」
『…はい。ありがとうございます。』
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