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「……高橋さん?」
じっと、ガラスの向こうを見つめている俺に、神谷が声をかけてきた。
「…あ…あぁ。…あまりに小さくて、驚いてしまったよ。」
「それは、わかります。
こんなに小さいのに、しっかり呼吸して泣いて…
れっきとした、一人の人間なんですよね。」
神谷も、目を細めて俺の視線の先を見つめる。
彼の目は、凄く優しくて柔らかい表情だった。
「……健太。」
それまで、黙って付き添っていた眞依美さんが神谷に声かけた。
俺の前だからか、遠慮して神谷の耳元で何か話している。
耳を貸している神谷も、うんうんと頷くと申し訳なさそうに言ってきた。
「高橋さん、すいません。
眞依美さん、昼食の時間と入浴があるので…」
「あぁ、そうか。
昼時に邪魔したな。」
腕時計を見ると、正午ごろだった。
「いえ。とんでもないです。」
「じゃ、暫く眺めたら俺も帰るとするよ。」
頭を下げて、眞依美さんと病室へと戻る神谷を見送る。
そして、またガラスの向こうへと視線を向けた。
これが、神谷の子供か。
楽しみにしていた姿を思い出すと、不思議な感じがした。
俺も、こんなひょんなきっかけで教えられるなんて、思いもしなかった。
【このままでいいの?】
そう、訴えかけられたように思えたんだ。
いいわけないだろ?
いつまでも、独りでいたくはない。
病院を出たら、変なプライドを捨て電話してみよう。
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