0.prologue

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珍しいな、と、男は感じた。 男には小さな頃から両親が居なかった。 居たのは、三つ下の妹。 男は、携帯電話を手に取る。 「ー……どうした」 珍しいな、とは、言わなかった。 『いや、特に用は無いんだけど』 妹が電話してくるなんて珍しい。妹は高い声でうーん、と唸る。 『あ。ご飯、食べてる?』 男と妹は別々に住んでいる。 「ああ……大丈夫。食べてる」 『お兄ちゃんが料理するなんて想像出来ない』 携帯から伝わる明るい声。 男は少しホッとする。 「お前は、大丈夫か? 何かあったら兄ちゃんに言えよ」 優しく、男は妹に問う。 『大丈夫よ。ちゃんとご飯も食べてる』 そうか。と男が頷くと、電子レンジが鳴った。 携帯を持ったまま移動し、『冷凍エビピラフ』と書かれた袋を取り出す。 「……あ。いかんキャッチが」 『あ。そっかごめんね』 「いや。気にするな」 肩と耳で携帯を挟みながら、エビピラフの袋を開ける。 まだ話していたいのだが、キャッチが彼を急かす。 「えと、じゃあ」 『うん。またね。お兄ちゃん』 「ああ。またな」 そう言って、男はキャッチに切り替えた。 それが、全ての始まりとも知らず。
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