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「次は、山神峠、山神峠です。お降りの方は……」
快く晴れた空が山神峠を美しく彩っていた。
この峠を越えれば、都市部とはうって変わった、のどかな田園風景が広がる。
「ん…もう着くか…。」
バスの1番後ろの席の窓側で寝ていた少年が起きた。
そのままゆっくり体を起こして、外を見た。
「うひゃあ、おい零!起きろよ!」
勇気は、前の席に座っていた少年を大きく揺すって起こした。
「んん…うるさいな…何だよ?勇気…」
「外見ろよ、ほら、めちゃキレーだぜ?」
勇気は外を指差し、零の肩を叩いて言った。
「外?…何だよ、山ばっかじゃん…」
「めちゃキレーじゃん。桜の花満開って感じだな。」
勇気はテンションが高い。しかし零は興味がないみたいだ。
「だから何だよ…つかもう次で降りるんじゃん。はやく準備しようぜ。」
「つまんねぇな、お前は。少しはそーゆーの興味持たないとダメだぜ?」
「ああ、はいはい。わかりました。つか、さっきからお前声がでかいぞ。それとはしゃぎすぎ。ここはバスの中だぞ。」
この2人の少年、黄里勇気と霧雨零は、幼稚園の頃からずっと同じ場所にいた。小学校、中学校と同じ学校に入り、そして高校も同じ場所を選んだ。
その高校の名は、中部麓章高校。20年前に夏の甲子園で優勝したことがある。しかしそれ以来、出場どころか県予選でも1回戦突破がギリギリになってしまった。地元紙には、「低迷の古豪」と批評された。
しかし、昨年は久しぶりにベスト16入りを果たし、復活の兆しを見せていた。
勇気と零は、この中部麓章高校に進学するために、バスに乗っていた。
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