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秀輔の正体が明らかになってからどれぐらい経ったのだろうか。
恵美と秀輔は全くメールのやり取りをしなくなっていた。
元々そこまで仲が良かったというわけでもないので、恵美もさして不思議には思わかった。
しばらくすると山内から、秀輔が携帯を没収されたことを耳にした。
「なんでまたあの子は携帯取られたの?」
偶然山内のクラスに立ち寄った時に、声をかけてみた。
「ほら、この前進路懇談あっただろ?」
受験生である3年生は1学期から1月に1回、担任と生徒と保護者で行う進路懇談というものがある。
そこでは、進路のことはもちろん、すでに内申が出ている場合はそれを知らされる。
中間テストや期末テスト、学力テストの結果もしっかりと親に報告され、表情が暗くなって教室から出てくる生徒も少なくはない。
「あ~、それで親になんか下手なこと言われた感じ?」
「そうっぽいよ」
「ふ~ん、まぁまたなんかわかったら教えてね」
それだけ告げると恵美はさっさと自分の教室に戻って行った。
その日も午後の授業を何事もなく過ごし、水泳部に足を運んだ。
「あ、先輩。今日は水温結構高いからそろそろ入れそうですよ」
プールサイドを覗くと、管理の当番である2年生の後輩が顔をこちらへ向けた。
まだ冷たいであろうプールの水に手を漬け、水温計を戻している姿からは、早くプールに入りたいという無邪気ささえ伝わって来る。
「指尾くん、ご苦労様」
タオルとペットボトルを片手に、プールサイドを裸足で歩いた。
「指尾」と呼ばれた少年は「いえいえ、僕らの仕事ですから」と、記録用ノートに記録しながらそう言った。
彼は元々男子テニス部にいて、去年の冬水泳部に入部した。
友達関係がうまくいかず、先輩とも気が合わず水泳部に来た人間は彼を含めて、恵美は2人知っている。
もう一人は、おととし卒業した男の先輩。
彼も元々男子テニス部にいたらしく、2年生の中盤に水泳部に入ったという話を、他の先輩から聞いたことがあった。
「やっと泳げるねー。指尾君は水泳部で泳ぐの初めてだね」
「そうですね、水泳は前まで習っていたので、ちゃんと泳げるといいんですが」
プールサイドに2人で腰かけ、日光を反射した水辺に足を漬ける。
「大丈夫だって。私も去年水泳やめたし」
少し眩しい空を見上げ恵美はそう言った。
「え?そうなんですか?」
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