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「あれ?知らなかったっけ?」
「えぇ、初耳です」
「何か、しんどかったんだろうね。それと、限界が見えちゃったみたい」
隣に座る後輩に笑いかけ、足で水を叩く。
「ま、そう言って逃げてるだけよ。あんまりお手本にしないように」
それだけ告げると、恵美はプールから足をあげた。
「ごめんね、用事思い出したから今日は帰るわ」
「あ、はい。わかりました」
濡れた足をタオルで拭き、靴下をはく。
「よいしょ…んじゃ、部活頑張ってね」
プールの入り口に置いてあったカバンを肩にかけて足早にその場を後にした。
正門に向かっていると、サッカー部の部長である長谷川晃(ハセガワアキラ)に声をかけられた。
「あれ?松倉じゃん。部活は?」
「ちょっとねー今日は休もうかなって。晃は今日も部活?」
ユニフォーム姿の彼はランニングの途中らしく、額には汗も見える。
「実はちょっと遅刻してさ、今日1日走っとけ、って顧問が」
そう言って長谷川はグラウンドに目を向ける。
「今年からの顧問怖いらしいねー」
「3分遅刻しただけで雷とんできたよ。ほら、秀輔も」
言った側から秀輔が息を切らして走ってきた。
「はぁ…晃、渡部のやつに見られたら…はぁっ…また説教食らうぞ…」
秀輔はそれだけ告げると、またランニングを再開した。
「うわっ、やべっ」
「ほらー早く行ってきなさいよ」
軽く長谷川の背中を小突くようにして走るのを促した。
秀輔のあとを追う長谷川を見届けると、恵美はふと秀輔とのメールを思い出した。
『そういえば最近連絡とってないな…』
長袖のカッターシャツに汗が滲むのを感じた午後。
季節は確実に夏へと向かっていた。
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