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「―――――・・・そんな顔、しないで奏君。」
ふと耳に桜さんの声が触れて、ハッと意識と視線を向ける。
鞄に着替えを詰め、入院の準備をしながら呆れ顔で笑う桜さんが僕を見ていた。
僕はソファーに腰掛けながら、自分がいつ家に戻って来たのかもぼんやりしている記憶を頭に並べる。
そんな僕の傍に桜さんが歩み寄り優しく両手で僕の頬を包んだ。
「心配しないで、私もお腹の子も大丈夫よ?」
「・・さ・・くら・・さん・・・」
・・・あたたかな笑顔で、
強く立つ桜さんが眩しかった。
僕はこんなにも恐ろしくて、
不安で押し潰されそうなのに・・・
彼女は華奢な身体一つで心とお腹の子を支え守っている。
「・・・ッ」
目頭が熱を帯び、僕は自然と口に力が入った。
何も出来ない自分があまりにも情けなくて、
こんなにも代わってやれたらいいのにと願っているのに・・・
サクラサン ソノコ
神様は女性にしか生命の重みを与えない。
その身体やその命と引き換えになるかもしれない重みを、
ボク
男には背負わせない。
代わりに無力感と遣るせ無い想いだけを投げ渡す。
どうして・・・
僕は君を守れない。
「――――――・・・っごめん桜さん・・・僕・・・っ」
「もー!泣かないでよ!お腹の子に笑われちゃうよ?奏君のこと、私を通して見てるんだから。」
僕はただ頷きながら、
神様にひとつ・・強く誓いをたてた。
諦めない、と。
奇跡は起きると。
そして起こすことも出来ると。
僕らの元へ舞い降りた命の強さを知ろうと。
そして・・・
最愛のこの人の、
全てを信じようと・・・。
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