*06..カラフルスカイ*

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そんな寂しさを心に抱いたまま、僕に珍しく休暇が出た。 連日のハードスケジュールや残業により溜まった疲れなど最早僕には感じられない。 ただ今は、逢いたいのに逢うのが怖い"あの人"のことばかり考えていた。 行ってもやっぱり・・・ 桜さんは一人で大丈夫と笑ってくれる気がしたから。 僕に弱さを抱きしめさせてはくれないだろうから。 これまで沢山の喜怒哀楽を共有してきて、 彼女は脆い心も躊躇わず僕に見せてくれた。 僕に涙を見せてくれた。 それなのに、そんな過去よりも苦しい今・・・ 彼女は"大丈夫"と頷くばかりで僕の腕をすり抜ける。 僕がお腹の子に迫る危険に戸惑い、俯いたから? 僕に頼っても意味が無いと思っているかもしれない。 桜さんは 強い人 だから。 「・・・ハァ・・・でも折角出来た休みなんだし、やっぱり心配だし・・・」 あぁなんか・・・ 桜さんに逢うことで、僕がその強さに安堵するのかもしれない。 『僕ってとことん駄目男・・・』 そんなことを思いつつ、病室の前までたどり着いた時・・ 扉の向こうから声が聴こえてきた。 ・・・看護婦さんと・・・ 桜さんだった。 「それじゃあ、午後には検査結果出ますからね。旦那さんも同席してもらえるといいんだけど・・・」 「あー・・ごめんなさい。うちの人には仕事優先させてるので。」 ―ドキ・・ なんだか・・・入るに入れない・・・。 「でも一人じゃ不安でしょう?大事なことだし・・。」 「だってあの人心配性だもん。仕事だっていつも休めるわけじゃないから、余計な心配かけて仕事出来ないんじゃ本末転倒だわ。互いの役割を果たさなくちゃ。」 ・・・役割・・・? それは桜さんが強いから、言えることじゃないか。 僕にはそんなふうに割り切れない。 「・・・怖くないの?一人で・・・」 看護婦さんが躊躇いがちにそう問い掛けた。 暫く沈黙が続き、また桜さんの声が鼓膜をやんわり刺激した。 「―――――――・・・誰にも本音は言わないわ。彼に伝わってほしくないもの。」 ・・・少し・・・声 が 震えた気がした。
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