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「私の我が儘で彼・・御両親と疎遠になっちゃったの。仕事だって今大事な時期なのに、私とこの子のためにいつも頑張ってくれてるわ。だからせめて・・・少しでも、彼のために笑っていたい。」
―――――――・・・鼓動が静かに、
優しい響きで僕を巡る。
そのあとも少し看護婦さんとの会話が続いていたけど、僕の耳にはそれよりも鼓動がざわめいて仕方なかった。
その場を離れ、誰も居ない廊下をただのろのろと歩く。
『・・・寂しい・・・なんて、子供みたいだ・・・。』
僕は父親になるのに。
どうしてこんなにも ちっぽけ・・・。
諦めない。
ただ祈りのようなそんな誓いだけを握りしめて、
僕は いつまで経っても 情けない。
強くなる と、決めた筈なのに。
『大変な時にまで気を遣わせてどうするんだよ。もっとしっかりしなくちゃ。』
君に追い付くように。
繋がれた手を離さないように・・・。
「―――――・・・あら?芹沢さん?」
「え。」
呼ばれて振り向くと、桜さんを担当してくれている(桜さんと話していた)看護婦さん。
と、
「奏君・・・今日仕事は?」
桜さん。
「・・・・・・・・・っ」
何故 固まってしまうかな、僕。
別に悪いことしてないのに。
「ハッ!まさかサボリ・・・!?」
「え!?いやっ、ちちち違うよ!今日はお休みで!片す仕事も終わったから!あの・・っしんぱ・・・あ・・逢いたく・・て・・・」
"心配"なんて
余計なお世話だとか言われそうで・・・
なんでか言葉を入れ替えた。
けど"逢いたい"なんて
なんか逆に 情けない。
いやもうすでに情けないとこばっかだけど。
一人気まずそうに俯く僕の数メートル先で、
看護婦さんが小さくクスッと笑いをこぼした。
反射的に顔を上げる。
「あ、ごめんなさい。可愛らしい旦那さんだなぁと・・。」
「!?」
『・・・かっ・・・!?』
その一言に大きなショックを受け石化した僕を尻目に、桜さんに「ね。」なんて合意を求める看護婦さん。
呆れている桜さんから合意の合図をもらうことなく、僕に軽く頭を下げクスクス笑いながら行ってしまった。
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