初めは些細なことから

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ここは田舎の駅。 駅の周辺は緑に囲まれていて、これといって印象に残る建物は何もない。 しかし、電車の終着駅のせいもあって一通りに電車は来て、乗り降りする人も少なくはない。 まぁ、田舎と言っても都会にほんのちょっとしか離れていない。駅前に建物が少ないのは単に自然を大切にしているだけなのかもしれない。 そんなところが俺の家だ。 この駅の改札の前に俺専用の高さ1mくらいの台がある。これは駅長でもあり、俺の主でもあるじいさんが作ってくれたものだ。 俺はよくそこで昼寝をする。 改札は外に面しているため、昼間は陽射しが心地良いし、改札口ということでいろんな人に触られたり、話しかけられたりする。他の猫だったらこんな騒がしい所は寄り付こうともしないだろうが、あいにく生まれてからずっとここにいる俺はそんなことを思ったことがなかった。 それは俺の日常だった。 いつも通り、昼寝をしていると、 「やぁ、猫さん。こんにちは。そこでなぁ~にしてんの?」 と柔らかい声が耳をくすぐった。 「ミャー」 (昼寝だよ) そう答えながら頭を上げると、そこには顔半分だけ覗かせた子供がいた。 その光景にびっくりした俺はつい毛を逆立ててしまった。 「うわっ、怒っちゃった?ごめん、ごめん」 その言葉を聞いて冷静になり、すぐに威嚇をやめた。 (やっちまった……) そう思いながら、顔半分しか見えない子供の様子を伺う。 「そうそう、恐くないよ。おいで~」 子供は恐がるどころか、俺を手招きしていた。 (良かった) 安堵のため息を『にゃー』と吐いて声の元へと向かう。 近づいてようやく姿全体を見ることができた。 身長は110㎝くらいで髪型は頭の後ろで髪の毛を束ねたポニーテールで、背中にはランドセルを背負っていた。 どうやら駅近くにある小学校に通う女の子のようだ。 ここは通学路の近くなので今までに何度か同じものを背負って歩いている子供を見たことがあるのでだいたい予想できた。 高台に顎を置き、少女を見下すと 「あっ、きたきた。言葉わかるのかな、えらいなお前」 と間延びした柔らかい声とともに頭をなでられた。
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