うるう月。愛を金に変える錬金術。

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「奴自身は悪く思われない。むしろ、感謝すらされるだろう。それに加えて、金は2倍。これ程いい仕事ァねェよな」 少女の鋭い視線が、男を射る。 「笑い事じゃあないんですよ。梶井君。よく考えてもご覧なさい。もし、私たちが"復讐のために"彼を探していると知れでもしたら、」 "彼は、きっと見つからない――" 「夜の街全てが、彼――脇村八一の味方なのですよ。関わっていた同業者も、彼のおかげで利益を貪った者たちも、一番の被害者であるはずの女たちも――、」 これは由々しき事態です、との言葉にも、梶井と呼ばれた男は余裕を崩さない。 それどころか、さも自信ありげに人差し指を立てた。 「馨クン。君はひとつ、大切なことを忘れている」 馨は、不思議そうに顔をあげる。 「そいつが生きてンのは何処だ?」 「色町ですね」 「通常、人々が暮らす地で金を稼いだ形跡は?」 「皆無です。あったとしても、国民皆が金のないご時世、顔の利く場所以外では生きていけないでしょう」 「だったら――、」 "ここは?" ハッと顔をあげた。 「夜の――街、――」 梶井が、大仰に両手を広げる。 まるで舞台役者のごとき振る舞いに、応じるように月明りが戻ってくる。 彼の端正な顔を、眩いばかりの月光が塗り分けていく。 「遊里で、俺たちの力が及ばない地がどれ程存在する? 蛇の道は蛇。同じ穴のムジナなんだよ。外に出た形跡はないんだろう?」 馨が、戸惑った声をあげる。 「え……えぇ。むしろ、出ないと思うんです。あれだけの金を動かしていたのでしょう? でしたら、一度味わった生活を捨てるのは不可能です。しかも――、」 表は、あんな状況ですし、と馨は目を伏せた。 「国単位で金はねェ。表に出ても、食いつなぐこと自体危うい。それに対して、時世柄未亡人や貧家の娘は街にわんさか……か」 いいねぇ、ヒトの不幸は我が身の幸福――ってか。 梶井は、さも楽しげに笑い声をあげた。
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