宵の口。真実の咆哮。

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「アタシは、"一生そんな人達から隠れて生きなければならなくなった" でも、貴方は"気にしないのだ"とおっしゃった。 では、"女が操を守らねばならない"と決めたのは誰? "色を売った者は蔑むべきだ"と決めたのはどなたかしら? 結局は、一部の男たちじゃない! 自らも色街の女を弄びながら、平然と彼女たちを見下している男が! そんなものに、何の効果を見つけられますか。 貴方はその言葉を無意識に使ったのかも知れませんが、それが心からの言葉であればある程、おかしいのです」 だって、 "貴方はアタシを売っておきながら、アタシの行為を許す立場であると公言しておしまいになった" 女が足を進め出す。 戸口から伸びた一本の光の道だけが、彼女の支配下であるように。 「もし、アタシひとりでしたら、また騙されてしまったやもしれません。それだけ愛しておりましたもの。 でも、――」 目前で、彼女の足が止まった。 恐る恐るその顔を仰ぎ見ると、ポタリと滴が降ってくる。 あの娘は――、 「貴方の、」 "緋イ、緋イ、" 「子は流れてしまいました」 "涙" 泣いていた。 シャリン、 冷ややかな朝の冷気に、その音は嫌によく通る。 あれ程までに神々しかった彼女の背に、一筋の影がかかる。 独特の、 出で立ち。 アレは、 「用件は御済みでしょうか」 シャリン、 袖口の鈴が鳴る。 女は何も答えない。 男は目を白黒させ、目の前の女に問うた。 「あれは、誰だ?」 いや、むしろ。 "ナンナノダ?" 「雨車さん――」 呼ばれた人物は、耳元の鈴を軽く鳴らし、小首を傾げた。
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