宵の口。真実の咆哮。

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男の喉が、くっと音を立てた。 食い込んだ人差し指は、まだ辛うじて気管を確保している。 耳元から垂れた飾り糸が、鈴の音を呼ぶ。 雨車は押さえるように笑い、面で覆われた顔を傾けた。 小首を傾げるような姿は、一種異様だった。 「貴方のような人間が、なんの民主を説けましょう。 笑止以外のなにものでもありませんね。 それにね、 "今の世だからこそ" なんですよ。 軍もない、権力者もいない。 鬼畜欧米は、唯一の救いと化し、かつての秩序は完全に崩壊した。 街にはまだ屍体が溢れ、人々は飢えと劣等感で己を砕き、手一杯……。 嗚呼そうだ。 今だからこそ、 "屍体が増えても、かまわない"」 全身の血が、音を立てて引いていく。 なのに、再び込められた力のせいで酸欠に陥った身は、熱く、傍目にも赤く染まるのがわかる。 悲鳴をあげる、暇すらない。 必死に足を蹴り上げ、爪を立てるが、何の効果ももたらさない。 嗚呼、こいつは、 人間ではないのかもしれない、 嗚呼そうか――。 薄ぼんやりと白みはじめた脳が呟く。 コノ男ハ、 "コノ服装ハ、コイツニトッテ、" 手から力が抜けていく。 嗚呼、もうだめなのかと目をつぶりかけた。 ――ブツンッ、 何やら盛大な音が響き渡る。 拘束を失った身体が、急に重力から開放される。 やっと、 と思った時、正方形に切り取られた真っ青な海から、溢れんばかりの魚が躍り出し、一斉に口の中へと飛び込んで来た。 息が苦しい。 肺が、 魚で埋まってしまう。 恐怖に目を見開いた時、途端に強大な力が背から骨へ。全身へと駆け巡った。 思わず、口から吐き出す。 大量の、 "サンソ"を、
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