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うるう月。愛を金に変える錬金術。
閏月(うるうづき)。
闇夜はドロリとして重く、そこに溶け込むふたりの影すら完全に食いつぶしていた。
ふたりは一定の距離をとり、一方は背後にした壁に背をもたせかけ、一方は前方を見つめたまま、朗々と声を響かせていた。
そう、ふたりは一直線上にあるようで、ただ互いに顔を背けあったまま同じ方向に潜む闇を見つめていた。
"エェ、脇村サマ。
モチロン知ッテオリマスワ。
ソゥネェ……ココ最近、イラシテクダサラナイワネェ。
モシカシテ、サガシテオイデ?
ゴメンナサイネ。
オヤクニタテナクテ……。
ドンナ?
妙ナコトヲキクノネ。
嗚呼、ソウイウコト。
ウフフ、ソウネェ……アノカタハ、トテモ――"
"ワキムラ?
サァ……ソンナカタ、イラシタカシラ。
嗚呼、《ヤイチサマ》ノコトネ。
ウゥン、イマハワカラナイワ。
エ?
エェ、ワタシハヤイチサマニ――、"
欠けた月は、申し訳程度にしか光を届はしない。
薄ぼんやりとしか照らされず、闇の息遣いがそこここに感じられた。
ほぅっと暖まった息を吐き、少女は手にした手帳を閉じた。
「私の方は、こんな感じです」
短く切り揃えられた黒髪の下、丸い瞳がくるりと瞬いた。
白い肌が、弱々しい月光に照らし出され、この世のものとは思えぬ色に染まっている。
しっかりと、その足で回ったのだろう。
今日はいつものエプロンドレスとは違い、淡い紫の素朴な着物だ。
よく調べたな、と呟くと、目の前の少女はさも当然とばかりに胸を張った。
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